NASを使ったバックアップで万が一に備える! 業務活用の基本

パソコンでの業務が当たり前になった昨今、ますます重要になってきたのがデータの保存と管理方法です。
契約書類はいわずもがな、企画書や提案書など、今までは印刷された紙媒体で受け取ることが多かった資料ですが、最近は電子データで事前にメールで受け取ることが多くなりました。さらに会議もオンライン開催が定着してきたため、紙媒体の資料は利用せず、PDFやパワーポイントの電子データをパソコンの画面に共有して説明をする、説明を受ける場面が多くなりました。発注書や請求書などの書類も、デジタル署名の普及により、PDFデータを原本としてPDFデータだけで取引を行う企業も増えてきました。

バックアップの重要性はますます高まる

2024年1月の電子帳簿保存法の改訂により、今までは紙保存が可能だった発注書や請求書などの書類が、原則データでの保存が義務づけられるようになりました。
特に請求書については、入出金が完了した後も、決められた期間、データ保存が必要です。たとえば電子帳簿ソフトやアプリを導入していたとしても、サービスの停止やPCの不調などでデータが消えてしまう可能性はゼロではありません。このため、定期的にバックアップを取ることは、ますます重要になってきているといえるでしょう。

1.「バックアップをとる」とは

「バックアップ」とは、パソコンなどのストレージ機器が壊れても、即座に「現在の環境・データ状態まで戻せるよう備えておくこと」をいいます。これは、災害時の防災グッズのように、もしものときに備えた準備です。何が起きるか分からないこのご時世、今までトラブルがなかったから必要ないとは考えずに、もしものためにできる限りの準備をしておきましょう。

1-1 バックアップの基本

皆さん、今使っているパソコンから「業務が完了したデータ」をHDDなどの別のストレージに移して保存することをバックアップと思っていませんか?
「今、使っているパソコンのデータ」を基準にして説明していきましょう。

「バックアップ」としてやってしまいがちな例

上の図のように、今使っているパソコンから、使わなくなったデータや完了した業務のデータだけを、HDDなどの別のストレージに移動することは、「データ移行」といいます。「バックアップ」とは異なります。たとえば、パソコンが壊れてしまった場合、一部のデータが失われてしまうので、バックアップになっていないことがわかると思います。一般的なバックアップ作業として、データ移行をイメージしてしまう人も多いのではないでしょうか。

「バックアップ」例

正しい「バックアップ」とは、パソコンに保存してあるデータを、2つ以上の異なるストレージに複製(コピー)することをいいます。2つ以上のストレージにデータが保存されているため、使っているパソコンやストレージが壊れてしまっても、データが失われず、すぐに業務環境を取り戻すことができます。

1-2 主なバックアップ手段

●外付けHDD
多くの人が、まずは主なバックアップ先としてイメージするのは外付けHDDではないでしょうか。パソコンとUSBケーブルで有線接続して、その都度データをバックアップする方式です。外付けHDDは、比較的安価に手に入れることができ、パソコン1台分を丸々保存できる容量があります。ただし、有線接続なので1対1の関係です。

●NAS
NASは、HDDに比べると購入価格は上がりますが、ネットワーク接続のため複数台のパソコンをまとめて接続することができ、その複数台のパソコンに対して自動バックアップも設定可能です。「データ転送・共有サービス」のような使い方で、社外へのデータ共有ができるモデルもあります。

●クラウドストレージ
クラウドサービスは、容量ごとに金額が決まっている月額支払い(サブスクリプション)サービスが主。インターネット上のサービスにデータを保存するため、機材を置くスペースを確保したり、管理する手間が省けます。一方で利用する場合は常にオンラインである必要があります。

●外付けSSD
外付けのHDDよりもデータの高速通信が可能です。HDDよりも小型化されており、持ち運びに便利です。耐久性も高く、落としたときの故障リスクは低くなります。

●光ディスク
容量は少ないながら、長期的なバックアップが可能で低コスト。しかし近年はDVDドライブなどがついていないノートパソコンやタブレットが主流のため、実際に使おうとすると、作業用ドライブを別で用意しなければならないなど、手間がかかるリスクがあります。

●USBメモリー
バックアップするには容量が少なく、持ち歩くことも多いためあまり適していません。短期の限定的なデータ保存方法として使用しましょう。

バックアップを行うためのストレージには、さまざまな種類があり、特長も異なります。それぞれのメリット・デメリットを把握して、自社にあったバックアップ方法を選びましょう。

2.データの一元管理を考えると、NASがおすすめ

「どのストレージをバックアップ先に選ぶのか」と同時に抑えておきたいポイントが、「データをどのように管理するか」ということ。バックアップ作業を効率よく行える方法を選びましょう。

2-1 複数人のデータを「一元管理」するにはNASが便利

バックアップは、2箇所以上のストレージにデータを複製することでした。このため、それぞれのパソコンに対して、たくさんのストレージが必要になり、大変だと思うかもしれません。会社の場合、社員数に対して、パソコンよりも多くの備品を購入するなんて難しいですよね。また、社員一人ひとりがそれぞれ別々にバックアップ先のストレージを持っていると、管理も大変です。

そこで、便利なのが「NASを使ったデータの一元管理」です。外付けHDDなどであれば、社員数が増えるごとに新しく購入や設置が必要です。NASであれば、ストレージを共有しているので、社員数が増えてもストレージ容量が残っていれば、新しく購入や設置は必要ありません。

NASで一元管理

2-2 NASはデータ共有がしやすい

NASは、一元管理だけでなく、データ共有も容易です。
Aさん、Bさん、Cさんがそれぞれ管理する企画書などの資料も、いつもNASの決められた場所に保存することで、いつも最新のデータにアクセスできるようになります。修正作業をするたびに最新データをメールに添付して複数人に送信するといった手間もありません。1つのデータに対し更新を行うため、Aさんが修正したデータに、Bさんがメモを残すといったことも可能です。誰かが更新をすると自動で最新のデータが共有されることになります。

2-3 NASは社外からもアクセスできる

NASは、USBでPCと直接つなぐ外付けHDDと違い、ネットワークに繋げられるため、社外からもデータにアクセスできる場合があります。
多くのNASは、社外からデータにアクセスできるリモートアクセス機能を搭載しているため、外出先でデータを閲覧したり、社外の人にアクセス許可を出してデータを閲覧してもらうことが可能です。セキュリティーが心配な人は、外出先や社外の人からのアクセスに対しては、「読み出し・編集」権限を限定するといったように、セキュリティーに配慮した機能を利用することで情報の漏洩防止につなげることも可能です。

3.NASとそのほかのバックアップ先で、メリット・デメリットを比較

NASと、そのほかのバックアップ先を比較してみました。

3-1 バックアップ先比較① NASと外付けハードディスク(外付けSSD)

HDDとNASの大きな違いは、ネットワーク接続が可能かどうか、データ共有機能があるかどうか。といった点です。
先に述べたとおり、HDDはパソコンとHDD間で1対1で使用しますが、NASはネットワークを介して複数台のパソコンと同時に接続することが可能です。また、HDDはパソコンとケーブルで接続すれば利用できますが、共同利用は不向きで個人利用タイプです。NASは事前に初期設定をする必要がありますが、HDDよりも多くの利用シーンに対応することができます。
社員が増えてくればくるほど、NASと外付けHDDの機能に違いが感じられそうです。

NAS 外付けHDD
接続方法 ネットワーク接続 USBケーブル接続
価格 外付けHDDより少し高価 比較的安価
データ共有 簡単に共有設定が可能 共有設定は不可
持ち運び 不向き 持ち運び可能
複数端末のバックアップ先として運用 容易 困難
※端末変更のたびに配線変更が必要

3-2 バックアップ先比較② NASとクラウドストレージ

クラウドストレージサービスは、NASと同じようにネットワーク接続で使用することができますが、大きな違いは容量や性能など使用するリソースに応じた運用コストを毎月支払う点。少ない容量から任意で選べるため、必要になったらすぐに容量を増やしたり減らしたりとフレキシブルに選べますが、その分定期的なコストがかかります。

NAS クラウドストレージ
容量 買い切り
容量変更には追加機器が必要
※RAIDを維持しながら容量追加は不可
小容量~大容量まで、プロバイダー側が
指定する容量で変更が可能
接続方法 ネットワーク接続 インターネット(オンライン)
運用コスト 買い切り 容量や性能など使用するリソースに応じた
毎月の支払いが必要
データ共有 簡単に共有設定が可能 簡単に共有設定が可能
データの保管場所 社内のNAS プロバイダーが提供する社外のストレージ

よく業務で利用されているサービスとして「Googleドライブ」、「Dropbox」などが挙げられます。またWindowsOSなら「OneDrive」、iOSなら「iCloud」など数多くのクラウドサービスがあります。

4.NASにバックアップをとる場合の考え方

4-1 法人で利用するなら毎日バックアップをとろう

個人利用のデータなら、撮った写真の保存など、記録を残すことが主な用途です。このため多少バックアップをする期間が空いてしまっても、それほど大きな問題はありません。
一方、法人が業務でデータを保存する場合、毎日の作業でデータは絶え間なく更新され、新しくデータが作成されます。このためバックアップは毎日定期的に行うことが望ましいです。人為的なミスだけでなく故障、ネットワーク経由で感染するウイルスなど、外部からの攻撃によりデータが消失するおそれもあります。ビジネスにおいてはデータの消失は大きな損害に繋がってしまいます。バックアップは「毎日」の業務としてできるよう、環境を整えることが大事です。

4-2 NASならRAIDを利用してデータ保存とバックアップを1台で両立できる

「バックアップ」は、2つ以上のストレージが必要ですが、やはり不必要な機材購入などは避けたいもの。NASであれば、RAIDを利用し、1台のNASで、データ保存とバックアップを実現することができます。

RAIDとは、Redundant Array of Inexpensive Disks(リダンダント・アレイ・オブ・インエクスペンシブ・ディスクズ)のことで、頭文字をとって「レイド」と読みます。RAIDは、2台のHDDを1つのドライブとして認識したり、表示したりする技術。実はNASはこの技術を最初から持っているので、1台のNASでHDD2台分の働きができるのです。NASを導入する場合は、RAIDを構築しておきましょう。

RAIDのさらに詳しい内容はこちら

4-3 NAS自体のバックアップをとる場合

パソコンやHDD、NASには安全に使用できるといわれる”保証期間”がありますが、なにごとも"絶対"はありません。NASも故障リスクはありますので、複数のストレージを組み合わせてバックアップを取ることで、よりよい環境を構築していきましょう。ここでは、NASのバックアップ方法を紹介していきます。

主なNASのバックアップ先

① NAS→外付けHDDの場合(外付けHDDでNASのバックアップを取る場合)
データ更新があるたび、手動でバックアップ作業をするのは、手間がかかり作業を忘れる可能性があります。NASのバックアップ機能を使えば、自動で定期的なバックアップを設定できます。

② NAS→クラウドストレージの場合(クラウドストレージでNASのバックアップを取る場合)
クラウドストレージを利用する場合、オンラインである必要がありますが、利用者にとっては管理対象の「機器」がないため、落下・故障などの「機器」の損害リスクを無視することができます。NASを利用する場合、それぞれのパソコンはバックアップ時にNASに接続するので、インターネットの通信帯域を圧迫するリスクを減らすことができます。NASの「機器」としての損害リスクも、クラウドストレージへの接続のための通信帯域が足りなくなるリスクも回避でき、それぞれの利点を活かした活用が可能です。

NASとクラウドの連携機能についてはこちら

③ NAS→NASの場合(NASでNASのバックアップを取る場合)
前述したRAIDを、NAS2台に置き換えた形をイメージしてください。NAS2台の間で「常に同一データを2つ自動で複製する」ことをレプリケーションといいますが、この機能を利用することでよりトラブルに強い環境を構築することができます。

5.バックアップの種類と動作モード

バックアップ作業にはいくつか種類があり、それぞれ特徴が異なります。この段落では、種類と動作モードを簡単に紹介します。

5-1 バックアップの種類

①ファイルのバックアップ
ファイルごと、フォルダーごとに複製する方法です。更新・新規作成したファイルだけをターゲットにしているので、作業時間を短く保つことができます。必要なデータを必要な量だけバックアップします。

②イメージバックアップ
パソコンのドライブ単位、またはストレージの中にあるすべてを丸ごとバックアップを行い、「イメージファイル」として保存する方法です。
データを復元する際は、OSを含めて一気にリカバリが可能で、パソコンを中心にシステム全体を比較的簡単に復元することができます。

5-2 バックアップの動作モード

毎回、すべてのデータをバックアップしていると、たいへん長い時間がかかってしまいます。
毎日バックアップを取る場合は、バックアップの時間を短縮するためのさまざまな方法があります。

●通常バックアップ(フルバックアップ)
毎回、すべてのデータをバックアップします。バックアップするデータ容量が多いため、作業時間も一番かかります。データの復元も、最後にとったバックアップデータを呼び出すシンプルな形です。


●増分バックアップ
1回目はすべてのデータをバックアップしますが、2回目以降は直前のバックアップから追加、変更したデータだけをバックアップする方法です。
直前のバックアップから追加や変更があったデータをバックアップするため、通常バックアップと比べて、バックアップにかかる時間を短縮できます。
なお、バックアップから復元する場合、1回目から最後のバックアップまでのデータを取り込む必要があるため、復元には手間がかかります。


●差分バックアップ
1回目はすべてのデータをバックアップしますが、2回目以降は1回目のバックアップから追加、変更したデータだけをバックアップする方法です。
1回目のバックアップから追加や変更があったデータをバックアップするため、通常バックアップと比べて、バックアップにかかる時間を短縮できます。
なお、バックアップから復元する場合、1回目と最後のバックアップのデータだけを取り込むことで復元ができます。


●レプリケーション
NASを2台用意して行うバックアップ方法です。1台目のNASをメイン機とした場合、メイン機でデータが更新されたときに、即サブのNASでもデータを更新し、常に2つのNASのデータが同一であるようにデータを保ちます。メイン機にトラブルがあったときに、すぐサブ機をメインに昇格して作業が進められるため、業務への影響が比較的少ないバックアップ方法です。

レプリケーションのさらに詳しい内容はこちら

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バックアップの基本と、NASの利用方法を説明してきましたが、いかがでしたか?
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