トラックボールマウスユーザーの不満を、どう解決するか。500件のレビュー分析から導き出した、バッファローの「答え」

バッファローがトラックボール市場に参入する——このニュースを聞いたとき、「待っていました」と胸を躍らせた方も、あるいは「なぜ今?」と新鮮な驚きを覚えた方も多いのではないでしょうか。新しい製品カテゴリーに挑戦するにあたり、開発チームは何を考え、どんなプロセスを経て製品を完成させたのか。今回は広報宣伝部が聞き手となり、商品企画の根本さんと開発担当の伊藤さんに話を聞きました。社内メンバー同士による、ざっくばらんな開発裏話をお届けします。

目次

「しっくりこない」違和感と、ユーザーの声に向き合った開発

── まずは、トラックボール市場に参入することになった『きっかけ』から教えていただけますか。

コンシューマーマーケティング部
根本 将幸氏

根本:ある時、人気のトラックボールを買ってみたんです。使ってみるとトラックボールの操作性のポテンシャルは感じたんですが、どうもしっくりこずに、そのまま放置してしまっていました。その後、トラックボールのプロジェクトに取り組むことになって、あらためて調べ直したんです。ユーザーの声を徹底的に分析して、市場に足りないものを突き止めて、自分たちがしっくりくるものを突き詰めて作りました。

500件のレビュー分析で見えた「3つの不満」

── 具体的に、どういった点が気になっていたのでしょう。

根本: 大きく分けて三つです。サイズ、接続切替、スクロール。ただ、これはあくまで個人の感想なので、本当に多くの人がそう思っているのか確かめたかった。そこでAmazonのレビュー500件を、ひとつずつ確かめてみることにしたんです。

伊藤: 根本さんから聞いて驚きました。500件を目視で——自分ではなかなかやろうと思わない手間です。でも実際のデータを見せられれば納得せざるを得ませんでした。

周辺機器開発部
伊藤 正泰氏
500件のレビュー分析で見えた3つの傾向

サイズに関する指摘 —— 52件

接続切替の操作性に関する指摘 —— 28件

ホイール・スクロールに関する指摘 —— 24件

── この数字をどう受け止めましたか。

根本: 自分の感じていた違和感が、自分だけのものではなかったと確認できたのが大きかったです。サイズの指摘が最も多く、これはおそらく日本のユーザーならではのニーズです。

レビューのデータ分析と並行して、市場に流通している主要な競合製品を実際に購入し、開発チーム全員で徹底的に使い込みました。使い慣れないデバイスをゼロから試すことで、初期の操作感のハードルや、長時間使用時の疲労の蓄積箇所について、先入観のないフラットな情報収集と検証を行いました。

ユーザーの操作性を最優先した「親指操作型」の選択

── 実際に開発に入ってみて、いかがでしたか。

伊藤: 協業先は一般的なマウス開発の実績は豊富でしたが、トラックボールの設計は初めてだったので、かなり要件定義の擦り合わせが必要でした。例えば初期設計では、進む・戻るボタンが親指の位置に配置されていましたが、トラックボールはボールから親指を離したくないんですよね。

──そもそも、親指操作型を選んだ理由は何だったのでしょうか。

根本: 一般的なマウスからの移行ハードルを最小限に抑えるためです。人差し指や手のひら操作型は特有の利点がありますが、ボタンの配置が根本的に変わるため、操作に慣れるまで時間がかかります。親指操作型であれば、左右のクリックやホイール操作の指の配置が通常のマウスと同じであるため、導入直後からスムーズに移行できます。本体の傾斜も約25度と緩やかなので、一般的なマウスと同じ感覚で扱えて、キーボードとの行き来も楽にできる設計にしています。

課題解決1:日本人の手に馴染む自然なサイズ感

── サイズについては、どのように解決したのでしょうか。

伊藤: これまでのトラックボールは海外規格をベースにした大きめの筐体が主流で、手の小さな日本のユーザーには負担になるケースがありました。そこで開発段階では試作品を何度も3Dプリンタで出力し、根本さんと一緒に実際の握り心地を確認しながらミリ単位で調整を繰り返しました。 手の大きさの違う二人が交互に握っては直し、を繰り返す中で、気がつくと手のひらにしっくりくる形状が見つかっていました。結果的には極めて標準的なマウスの延長にある自然な形ですが、それまでに支持する軸受けの位置も含め、何度も調整を重ねています。

── ボールのサイズの選定には、どのような背景があったのでしょうか。

伊藤: 34mmを採用しました。ボールを大きくすると筐体が大きくなり、手の小さいユーザーには負担になります。34mmはコンパクトな筐体を維持しながら、Excelのセル選択など細かい操作に必要な可動域を確保できるサイズです。

課題解決2:本体を持ち上げさせない「天面接続切替ボタン」

── 接続切替についても、多くの指摘がありました。天面配置にした狙いを教えてください。

伊藤: 一般的なトラックボールや高機能マウスは、接続切替ボタンが本体の裏面に配置されていることが多く、切り替えるたびに本体を持ち上げるという無駄な工数が発生していました。本製品ではこのボタンを天面に配置し、机に置いたままデバイスを切り替えられるようにしました。

課題解決3:高速スクロールと金属ホイールが生む「作業効率の最大化」

── ホイール・スクロールに関してはどのようなアプローチをしたのでしょうか。

伊藤: 指摘が多かったのが「スクロールが遅い」という点でした。これについては、高速スクロール機構の標準搭載によって解決しました。縦長のExcelシートや情報量の多いWebページを閲覧する際、一般的なホイールでは何度も指を弾く必要があり、長時間の作業では指の疲労とタイムロスに直結します。 開発パートナー企業から金属ホイールの提案があって、サンプルを少し触らせてもらったら操作感が非常に良かった。これはいけると、一発で決めました。

根本:高速スクロール機能を用いれば、一度のフリックで一気にページを移動できます。腕を固定して負担を減らすトラックボールの基本概念に、指の運動量を最小化する高速スクロールを掛け合わせること。これがデスクワーカーの生産性を最大化するために私たちが導き出した答えです。

実用性を追求した「DPI設定」と「電池寿命」の最適解

── DPI設定については、あえて選択肢を絞り込んでいるのですね。

根本: ベース設計では5段階あったんですが、実用的に使う範囲に絞りました。選択肢が多いと迷うし、切り替えるたびに何度も押すことになる。500・800・1200の3段階あれば、ほとんどの用途には対応できます。

── センサーの選定についても、検討を重ねられたのでしょうか。

伊藤: トラックボールの心臓部となるセンサーは、最高性能を追求するより、十分な性能と低消費電力を両立させることを優先しました。4000cpiと十分な速度を持ちながら消費電力が非常に小さく、高速スクロールホイールの駆動も含めたトータルのバランスを考えての選択です。単三電池1本で約2.5年(当社調べ)もつので、頻繁な電池交換の手間を気にせずに使えます。将来的には、よりハイグレードなセンサーを搭載したモデルも製品化したいですね。

ハードとソフトの両輪で目指す「デスク環境の質の向上」

──質感や塗装にもこだわったと聞きました。

根本: 長時間のデスクワークでも皮脂汚れが目立ちにくく、かつ指先の滑りを適度に抑えるマットコーティングを採用しました。単なる入力機器としてではなく、こだわりのキーボードやモニターと並べたときにワークスペースの質を高める、そんなデザインを目指しています。

──ソフトウェア面ではいかがですか。

根本:本製品の発売に合わせて、マウスカスタマイズソフト「マウスカスタム+」(ボタン割り当てやポインタ速度を変更できる無償ソフトです)をトラックボール対応にしました。管理者権限なしでインストールできるので、会社のPCにも導入しやすくなっています。

伊藤:ハードウェアの形状で身体的負担を減らしつつ、ソフトウェアによる機能のカスタマイズで業務効率を引き上げる。ハードとソフトの両輪で設計を最適化できたのは、PC周辺機器メーカーとしての我々の強みですね。

違和感を抱えていたすべてのデスクワーカーへ

── どのような人に使ってほしいですか。

根本: トラックボールに興味はあるけど、今の選択肢にしっくりきていなかった人に、まずは手に取ってみてほしいです。手のひらにしっくりくる——そんな感覚をぜひ試していただければと思います。

伊藤: トラックボールを日常的に使う人の視点で設計したつもりです。「もう少しこうだったら」と思っている人の違和感を拾えているかどうか——実際に使ってみた感想を聞いてみたいですね。

高速スクロールホイール搭載 トラックボールマウス

BSTBB700シリーズ

ユーザーのリアルな不満に向き合い、改善を重ねて生まれたバッファロー初のトラックボールマウス「BSTBB700シリーズ」。
日本人の手にしっくりなじむ筐体に、最大3台のマルチペアリングに対応し、置いたまま切り替えられる「天面ボタン」や、指の負担を劇的に減らす「高速慣性スクロール」、静音設計など、ビジネスの生産性を高める機能を凝縮しました。

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