「中小企業向けVPNルーター」はなぜ実現できたのか? その秘密をバッファローの担当者に聞く

企業の拠点間、あるいは拠点と外部を結ぶ「VPN(Virtual Private Network)」の構築において、ネックになるのが「VPNルーター」の価格である。バッファローのVPNルーター「VR-U300W」「VR-U500X」は、中小企業や中小規模の拠点への導入に焦点を当てることで税込み5~6万円程度という手頃な価格を実現した。商品担当者へのインタビューを通して、その魅力に迫る。

中小企業、中小規模の事業所や個人事業者にとって“ちょうどいい”ネットワーク機器を探すのは、意外と難しい。例えば「Wi-Fi(無線LAN)環境を整えよう!」と考えて、法人向けのルーターやWi-Fiアクセスポイントを調達しようとすると、その価格の高さがネックになりがちだ。一般的に、設定も難しかったりややこしかったりする傾向にある。

 「それなら、設定が簡単で手頃な家庭用のWi-Fiルーターを使えばいいのでは?」と考えるかもしれない。事実、法人でも家庭用Wi-Fiルーターを使っているという話はよく聞く。しかし、家庭用Wi-Fiルーターのほとんどはビジネス利用に求められる「より強固なセキュリティの確保」「同時接続台数の多さ」といった要件を満たしきれない

 そんな中、バッファローは2022年に中小企業、中小規模の事業所や個人事業者に最適なVPNルーター「VR-U300W」(Wi-Fi対応モデル)と「VR-U500X」(有線専用モデル)を発売した。既存のVPNルーターよりも手頃な価格ながら、ビジネス利用に適したセキュリティ機能を備え、設定画面から“難しさ”を極力排除していることが特長だ。

 この記事では、「ネットワークで企業DX(デジタルトランスフォーメーション)を支援」というメッセージを打ち出すバッファローの担当者から両商品の“スゴい”ポイントを聞いてみた。

バッファローの法人向けVPNルーター「VR-U300W」(左)と「VR-U500X」(右)
インタビューに答えてくださったバッファローの担当者。左からネットワーク開発部 内製FW第二開発課長の谷川昌也氏、ネットワーク開発部長の田村信弘氏、法人マーケティング部長の富山強氏

ニーズがあるのに手薄だった中小企業向けのVPNルーター

―― バッファローの法人向けVPNルーターのどこが画期的なのか、ポイントを教えてください。

富山強氏 ずばり価格です。ターゲットにした法人ニーズを満たす機能や性能を実現した上で、事前に設定したターゲット価格を実現することにこだわりました。

法人マーケティング部長の富山強氏

 そもそも、法人向けルーターの市場は、ここ20年ほど非常にスタティック(静的)な状況でした。もう少し具体的にいうと、一部の企業が高いシェアを保ち、新たな競合がめったに現れない市場だったということです。よく言えば「安定している市場」、悪く言えば「商品の価格が高止まりしている市場」という感じです。

 そういう状況なので、法人のお客さまがVPNルーターを買い求めようとすると、価格的なボリュームゾーンが数十万円で、導入先の状況によっては明らかにオーバースペックということもありました。ゆえに、予算感と相まって「家庭用のルーターを導入しよう」という判断をしたお客さまが少なからずいらっしゃったと考えています。

 しかし、家庭用の商品と法人向けの商品では、求められる機能や保証を含むサポート体制に違いがあります。だからこそ、当社では「5万~6万円で購入できるVPNルーター」へのニーズは確実に存在すると考え、商品化すれば受け入れられるという確信を持っていました。

田村信弘氏 当社の商品の販売店からヒアリングを行った際に「お客さまによって勧める商品を段階的に変えている」というお話を聞きました。

 その販売店では、ルーターをお求めになる法人のお客さまに「30万円台(ファイアウォール付き)」「10万円台(VPN接続対応)」という順でお勧めしていって、「予算が……」となった場合に当社の家庭用Wi-Fiルーターを提案していたそうです。そんなこともあり、「3万~5万円程度で購入できる法人向けルーターをぜひ商品化してほしい」というご要望も頂きました。

「中小規模のネットワークにピッタリなVPNルーター」は、ありそうでなかった商品である。販売店からのフィードバックを受けたバッファローは、そこに着目して商品化を決定したようである

 そこで当社は単拠点から数十拠点までカバーできる、中小規模でも利用しやすいVPNルーターの開発を進めることにしました。中小企業や中小規模の事業所、あるいは個人事業主の方が使うのであれば、数千拠点もカバーできるスペックは不要なので、その分の価格を抑えるという格好です。

法人向けVPNルーターを導入するメリットは?

―― 先ほど販売店で「家庭用Wi-Fiルーターを勧める」という話もありましたが、中小企業や中小規模の拠点、個人事業主が法人向けVPNルーターを選ぶ利点を改めて教えてください。

田村氏 設置する拠点数によらないメリットとして分かりやすいのは、法人向け商品の方が保証期間が長く設定されていることです。当社の場合、家庭用Wi-Fiルーターの保証期間を1年としていますが、法人向け商品は最長で5年保証※となります。

ネットワーク開発部長の田村信弘氏
  • 通常保証期間は3年で、購入日から30日以内にユーザー登録を行うと保証期間が2年延長される
「VR-U300W」と「VR-U500X」は3年保証で、購入から30日以内にユーザー登録を済ませることで5年保証となる。保証期間の長さは、家庭用Wi-Fiルーターにはない大きなメリットといえる

田村氏 複数拠点で扱う場合、当社の法人向けVPNルーターは「リモートアクセスVPN」と「拠点間VPN」の両方に対応していることもメリットです。対地数(同時接続台数)は「VR-U300W」が最大16台、「VR-U500X」が最大30台となっています。中小企業や中小規模の事業所におけるテレワークにも安心して使っていただけます。

 加えて、多くの端末が同時通信しても十分な性能が出るように、ハードウェアによるアクセラレーションも併用しているため、スループットを向上しやすいというメリットがあるのです。

 自社計測した数値ではありますが、当社のルーターでリモートアクセスVPNを利用した際のスループットは以下の通りです。想像以上の差が出ていると思います。

  • 家庭用Wi-Fiルーター(WXR-6000AX12P):約400Mbps
  • VR-U300W:約850Mbps
  • VR-U500X:約2300Mbps

 少し細かい所まで目を向けると、「NATセッション」の最大値にも差があります。1台の端末が合計で500セッションの通信を行うと仮定した場合、接続できる端末の台数は以下の通りとなります。

  • 家庭用Wi-Fiルーター(WXR-6000AX12P):約64台
  • VR-U300W:約131台
  • VR-U500X:約500台

 「家庭用Wi-Fiルーターでも十分ではないか?」と思うかもしれませんが、特にクラウドサービスを利用する前提に立つと、セッション数が500を超える場合も珍しくありません。接続する端末が多くなるほど、法人向けVPNルーターの方が安定して快適に通信できます。

バッファローの家庭用Wi-Fiルーターのフラグシップである「WXR-6000AX12P」と、同社製の法人向けVPNルーター2モデルの機能差分。ビジネスで使うという観点では、最長5年保証は心強く、VPN接続時のパフォーマンスがより高いことも大きなメリットである

谷川昌也氏 当社の法人向けVPNルーターは、ユーザーアカウント単位の認証が行える点も利点です。MACアドレスではなくアカウントのコントロールでも不正接続を防げるようになっています。

 加えて、当社が無料で提供しているリモート管理サービス「キキNavi」にも対応しています。機器の稼働状況の確認やメンテナンス用の簡易的な操作を現場へ出向くことなく遠隔で行えるので、機器管理者の負荷を大きく軽減できます。

内製FW第二開発課長の谷川昌也氏
バッファローの法人向けVPNルーターには「RADIUSサーバ」機能が内蔵されており、Wi-Fi(VR-U300Wのみ)やリモートアクセスVPNの接続にユーザー認証を要求することもできる。これを活用すれば、MACアドレスではなくユーザーアカウントよって接続の許可/拒否を設定できる

富山氏 他にも、当社の法人向けVPNルーターには動作保証温度の範囲が広いという特長があります。「VR-U300W」であればセ氏0~45度、「VR-U500X」であればセ氏0~50度の環境での動作が可能です。

 ネットワーク機器は、空調のない環境に置かれることもあります。そのことを想定して、保証温度の幅を広めに確保しています。

用途に合わせて選べるバッファローの法人向けVPNルーター

―― バッファローの法人向けVPNルーターについて、もう少し具体的に教えてください。

富山氏 先ほどから話にも出てきていますが、当社の法人向けVPNルーターの軸となる商品は「VR-U300W」と「VR-U500X」の2つを用意しています。

 白いボディーの「VR-U300W」は、有線LANに加えてWi-Fiにも対応しています。支社や支店といった中小規模の拠点に設置することを想定した商品です。

 外観的には家庭用Wi-Fiルーターに近く、カラーもホワイトですので、いろいろな場所で目立つことなく調和することが魅力です。「単一事業所での利用」「従業員が20人以下」という場合は、「VR-U300W」でも十分なパフォーマンスを発揮できます。

Wi-Fi通信にも対応する「VR-U300W」は、外観は家庭用Wi-Fiルーターに近い。同社の法人向けWi-Fiアクセスポイント「AirStation Pro」のラインアップの1つでもある

富山氏 一方、黒いボディーの「VR-U500X」は有線LANのみに対応しています。企業の本社や本部など“本拠地”となる場所に設置することを想定した商品です。

 拠点が複数ある企業の場合、本拠地に「VR-U500X」を設置していただき、各拠点に「VR-U300W」を設置することで拠点間VPNを構築できます。その上、テレワークに欠かせないリモートアクセス環境も整備可能です。「中小企業はテレワークが難しい」という指摘もありますが、当社の法人向けVPNルーターを使えば中小企業でも比較的容易にテレワーク環境を構築できます

 加えて、「従業員が20人以上いる」という企業についても、NATセッション数がより多い「VR-U500X」がお勧めです。

有線専用モデルである「VR-U500X」は多拠点の法人における本拠地側、あるいは多人数の法人/拠点での利用を想定したモデルとなる。WAN(インターネット)側とLAN(ローカル)側で1ポートずつ10GBASE-T(10ギガビットイーサネット)を利用できることも特長だ

田村氏 当社のVPNルーターは手頃な価格帯を狙っているという旨の話をしましたが、それは「安いから機能面で妥協している」という意味ではありません。

 まず、企画や開発段階からターゲットとなるお客さまをしっかりと定めて、必要十分なスペックと機能を“逆算して”搭載することで手頃な価格を実現しています。例えば、Wi-Fi対応モデルは「Wi-Fi 6(IEEE 802.11ax)」に対応していますし、有線モデルは「10GBASE-T」に対応していたりします。VPNルーターとしての機能は、10万円台の商品とほぼ同等です。

―― 価格以外の面で、バッファローならではのメリットはあるのでしょうか。

谷川氏 当社の商品には、お客さまからのヒアリングやテストで得られたフィードバックを反映した機能が複数搭載されています。その一例が「ルーターの設定方法」です。

 一般的に、法人向けVPNルーターの設定はコマンドラインのインタフェース(CLI)から行います。家庭用Wi-Fiルーターに慣れ親しんでいるお客さまからすると、このCLIが導入する上での障壁になり得ます。「(家庭用商品と同じように)Webブラウザから設定できるようにしてほしい」という要望は数多く頂いてきました。

 そこで当社の「VR-U300W」と「VR-U500X」は、Webブラウザから各種設定を行えるユーザーインタフェース(UI)も搭載しています。UIは当社の家庭用Wi-Fiルーターとおおむね同じなので、当社製の家庭用Wi-Fiルーターに慣れ親しんでいる方であれば違和感なく扱えます。

 専門的な知識を持つ情シスのいない企業や拠点でも、運用や管理をしやすいことは、強みの1つです。

「VR-U300W」と「VR-U500X」にはWebブラウザから設定を行うUIが用意されている。画面構成はバッファローの家庭用Wi-Fiルーターに近いため、同社の家庭用Wi-Fiルーターを使ったことがある人なら戸惑うことなく操作できる

谷川氏 一方で、何でも家庭用商品と同じにすれば良いというわけでもありません。“法人向け”であることを意識した工夫もあります。

 当社の家庭用Wi-Fiルーターでは、付属する設定カードに書かれているパスワードを入力して初期設定を行います。しかし、法人向けのVPNルーターの場合、複数台をまとめてセットアップすることも珍しくありません。1台1台異なるパスワードを入れて設定していくのは、非常に骨の折れる作業です。

 そこで、「VR-U300W」と「VR-U500X」では、初期設定用のパスワードをあえて設定していません。その代わり、初期設定で機器パスワードを設定しないとインターネット通信できないようにすることでセキュリティを確保しています。

家庭用Wi-Fiルーターとは異なり、「VR-U300W」「VR-U500X」では機器設定の初期パスワードを未設定(空白)としている。機器設定のパスワードを設定するまではインターネットに接続できないようにすることで、セキュリティを担保している

谷川氏 日本のインターネット回線事情を考慮した検証も行っています。

 日本の場合、契約先のISPによってパケット(データ)をやり取りする方法、ポートの開放状況やアドレスの変換方法が異なります。そのため、例えば拠点間VPNを構築する際に、両端に同じVPNルーターを設置したとしても、それを結ぶ回線やISPによってはうまくつながらないこともよくあります。

 そこで当社では機器や回線/ISPをいろいろと組み合わせて検証しています。組み合わせは膨大で、検証も大変なのですが、1つ1つチェックを行っているからこそ、安心して使える商品を自信を持って送り出せるのです。

どのような場所で活躍している?

―― バッファローの法人向けVPNルーターは、どのような場所で使われているのでしょうか。

富山氏 まず公共分野では、規模が小さい複数の地方公共団体において、役場/役所内のネットワークや、役場/役所と出先機関(出張所や住民センターなど)を結ぶネットワークの構築に使われています。

 中小規模の事業所だと、数店舗~十数店舗規模の飲食チェーン店にでの採用例が多いです。たまたま行った飲食店のレジの横やキャビネットに「VR-U300W」の姿を認めてニッコリしたこともあります。

 当社の法人向けVPNルーターは「大規模ではないけれど、通信の安定性や信頼性は欠かせない」という現場で愛用いただくことが多いです。医療系システムを取り扱う販売店に話を伺う機会があったのですが、「バッファローの法人向けVPNルーターは設定にかかる工数を削減できるのでありがたい」とお褒めいただきました。病院/診療所や薬局のネットワーク設定は、基本的に診療時間外に行うことになるので、短時間で設定できることが好感をもって受け入れられたようです。

 VPNルーターを含む当社の法人向け商品は、多くの中小企業や個人事業主の皆さまに愛用していただいています。当社のWebサイトでは、「導入事例」としてその一部をご紹介している他、定期的にオンラインでセミナーやイベントも開催しています。VPNルーターを始めとする当社の法人向け商品に興味のある方は、ぜひオンラインのイベントやセミナーをご視聴ください。Webでの問い合わせも可能ですので、気軽にご相談いただけると幸いです。

バッファローの法人向け商品の導入事例はバッファローのWebサイトに複数掲載されている。もちろん、今回紹介したVPNルーターの導入事例もある(事例ページは画像をクリック)
バッファローでは法人向けのイベントやセミナーをオンラインで実施している。直近では2月8日~10日の日程で「BUFFALO OnlineConnect 2023」を開催する予定だ(詳細はバナーをクリック)

 バッファローの法人向けVPNルーターは、一般的なVPNルーターではオーバースペックになりがちな規模の小さい企業や拠点にピッタリな作りとなっている。「本格的にVPNを導入したいけれど、法人向けルーターが高すぎて二の足を踏んでいる」という企業や組織にこそ注目してほしい。

 同社の商品開発/マーケティング担当者は、誰と話をしても“情熱”にあふれている。その情熱から生まれた商品は、要チェックである。

インタビュー中のひと幕。話しぶりから愛情を込めて商品作りをしていることがよく分かった

出典元:ITmedia PC USER (https://www.itmedia.co.jp/pcuser/articles/2302/01/news005.html)

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