バッファローの法人向けネットワーク機器で利用できるリモート管理サービス「キキNavi(ききナビ)」は、他社の同種サービスとは異なり“無料”で利用できることが強みである。なぜ“無料”で提供できるのか、同社の担当者にその秘密を聞いた。
バッファローが提供するネットワーク機器のリモート管理サービス「キキNavi」は機器がいくら増えても“無料”で利用できる。
ネットワーク機器の保守/管理のため、その管理担当者は定期的、あるいは何かあった際に拠点に赴く……というやり方は“今風”とは言いがたい面がある。特に、IT部門の人数が限られる中小企業の場合、メンテナンスのために人的リソースを割くようなアプローチを取ることは困難だ。ネットワーク機器の保守/管理作業をリモートで行えるようにできれば、効率面で大きなメリットとなる。
しかし、この「リモートによる効率化」には、ちょっとした“落とし穴”もある。多くの場合、ネットワーク機器のリモート管理サービスは月額または年額の有償保守サービスの一部に組み込まれているのだ。料金は基本的に台数単位となるため、保守/管理すべき機器が1~2台で済むのであれば大した負担にはならない。しかし、拠点が分散している場合は拠点ごとに機器を置くことになるため、その分だけ費用もかさむ。場合によっては保守費用(≒維持費)だけで月に十数万~百数十万円の出費になるかもしれない。それが1年、2年……と積み重なると、特に中小企業の場合は相当に無視できないインパクトとなる。
そんなリモート管理サービスを、バッファローなら“無料”で利用できる――利用者側から見ると、このことはありがたい限りである。しかし、視点を変えると「重要な収益源を手放して大丈夫なの?」「本当にタダでしっかりとした管理ができるのか?」と不安になる読者も多いのではないだろうか。
なぜ、「キキNavi」は“無料”で提供できるのだろうか。そして“無料”でも安心して使えるのだろうか。「ネットワークで企業DX(デジタルトランスフォーメーション)を支援」というメッセージを打ち出すバッファローの担当者から話を伺った。
バッファローの「キキNavi」とはナニモノ?
―― そもそも「キキNavi」とは、どのようなサービスなのでしょうか。
富山強氏 キキNaviは、クラウド経由で遠隔地にあるオンプレミス機器を管理できるサービスです。キキNavi自体は、無料でご利用いただけます。
リモート管理できる対象は当社製の法人向けネットワーク機器です。具体的にはNAS、有線LANルーター、有線スイッチ、Wi-Fi(無線LAN)アクセスポイントが含まれます。2022年9月末時点で6000社以上にご利用頂いております。
こうしたネットワーク機器のリモート管理サービスは、一般的に保守サービスに内包される形で有償提供されることが多いです。「できるかぎり管理コストを抑えたい」というお客さまの声に応えるべく、バッファローではリモート管理サービスを切り出して“無料”で提供させて頂いております。
富山氏 その他、「キキNavi」は「保守/管理会社向け」と「エンドユーザー向け」に、それぞれ入り口を用意してあることも特徴です。必要に応じて、保守/管理会社とエンドユーザーの権限を分ける(個別に設定する)こともできます。
これは、日本の企業ではシステムインテグレーター(SIer)や保守・管理会社がネットワーク機器の管理実務を代行しているケースが多いという事情を踏まえて実装した機能です。
―― 最近では「キキNaviクラウドゼロタッチ」の提供も開始しましたが、こちらは何が違うのでしょうか?
富山氏 「キキNaviクラウドゼロタッチ」は、2022年11月から提供を始めた新しいサービスで、キキNaviと合わせて“無料”で提供しています。
こちらは当社の法人向けWi-Fiアクセスポイントで利用できるゼロコンフィグ(ゼロ・コンフィギュレーション)サービスで、事前に対象商品の開封や通電を必要とせず、「キキNavi」から一括設定することが可能です。保守/管理会社や情シスの方は「現場(設置場所)で開封して、アクセスポイントの電源を入れて、1つ1つ設定をして……」という手間から解放されます。Webから一括設定した後、商品を未開封の状態で支社や営業所といった拠点に送るだけでOKです。
拠点では、届いた商品の封を開けて、インターネットにつなげるだけで事前設定がダウンロードされ、すぐに使えるようになります。拠点に情シスやITリテラシーの高い人がいなくても、つなぎ方さえ事前に教えておけば大丈夫です。
ちなみに、キキNaviクラウドゼロタッチの対象商品をWi-Fiアクセスポイントに絞っているのは理由があります。アクセスポイントは、PCやタブレットといった情報機器と接する“最終端”にある機器です。設置台数も多くなる傾向にあり、故障や経年でのリプレースが発生する回数も比例して多くなりがちだからこそ、このような機能が必要だと考えたのです。
一方、アクセスポイントに対して通信ルートを整理するルーターやスイッチ、記憶装置であるNASは、そこまで頻繁にリプレースされるものではないので現在は対象に含めておりません。
なぜ「キキNavi」は無料で使えるのか?
―― 単刀直入かもしれませんが、「キキNavi」や「キキNaviクラウドゼロタッチ」を“無料”で提供できる“秘密”を教えてください。
富山氏 もしかすると「キキNaviの利用料相当額が機器代金に乗っかっているのではないか?」と思うかもしれませんが、そんなことはありません。同種のネットワーク機器の価格を見比べれば分かると思いますが、当社の機器は他社様と比べると実売価格は安価な傾向にあります。
田村信弘氏 「キキNavi」や「キキNaviクラウドゼロタッチ」を”無料”で提供できているのは、機能の取捨選択をうまく行っているからです。ユーザーが求めるサービス品質は維持しつつ、必要以上のコストが掛からないように工夫しています。これは自社開発を行っているからこそ実現できるもので、必要十分なソリューションに焦点を当てた「引き算の開発」を行えるのが当社の強みだともいえます。
また、この手のサービスはクラウドへのデータ通信量がそのままコストとして積み重なっていくので、余分なデータ通信が極力発生しないように設計上での工夫も行っています。
伊藤晃大氏 例えば、リモート管理サービスの画面を開発する際に、リアルタイムかつグラフィカルに通信量や接続台数を把握できる機能は「見た目」の印象としてはプラスに働きます。しかし、実際に運用してみると、このような機能の必要性は思っている以上に低いことが分かりました。
田村の言う通り、この「見た目の良さ」を演出するために生じるトラフィック(通信)も運用費用として跳ね返ってきます。ここをカットすることで、運用にかかるコストを抑えることができています。
富山氏 ただ正直、グラフィカルな要素を減らすという決断には勇気がいりました。競合他社様の管理サービスなら備えていることが多いですし、視覚的な分かりやすさも大切なことは確かだからです。
しかし、こうした機能を「ユーザーは使っているのか?」と調べてみると、実はそんなに使われていませんでした。そこをそぎ落とすことにしたわけです。
開発担当者がユーザーから直接ヒアリングして機能に反映
―― ずはり、ユーザーのニーズを見極める秘訣(ひけつ)は何でしょうか。
田村氏 開発担当者がきちんと現場でヒアリング(意見聴取)をしていることが、1つの鍵だと考えています。
例えば「お客さまが『アプリが欲しい』と言っている」と話が来た場合に、素直に受け取ると「PC、タブレット端末やスマホで動くアプリが欲しいのかな?」と考えます。しかし、そのユーザーが求めていることはアプリを用意しなくても実現できるかもしれません。機能の要/不要を見極めるには、開発担当者がユーザーから直接意見を聞いて困りごとの本質を見抜くことが重要で、これがより効果的な開発につながるのです。
ヒアリングの際は、当社商品を扱っていただいている販売店から無作為に候補を選んだ上で、ご協力いただける販売店に訪問させていただいています。
ある販売店では、同じような設定を施した機器をチェーン店などに発送する業務に従事する担当者から話を聞きました。それこそ「機材を取り出して、画面を開いて、設定して、箱に入れ直して発送する」という作業を大量にこなしている人です。その人からは「アプリなりツールなりを使って、機器に設定を“流し込む”ことはできないか?」という要望を受けました。
この要望をそのまま聞く“だけ”で済ませたら「機器とつないで設定を流し込むためのアプリ(ツール)」を作っていたかもしれません。しかし、実際に話を聞きに行けば「箱を開けないで設定できたら、もっといいですよね」と、もう一歩突っ込んだ話を具体的にできます。
このケースの場合、最終的なニーズはアプリやツールではなく、キッティング時に箱を開けないで機器を現場に直接発送し、現地でインターネットにつなぐだけで必要な設定が自動的に反映されて使えるようになる仕組みでした。これが「キキNaviクラウドゼロタッチ」を開発する直接のきっかけです。
田村氏 また更に別のユーザーからは、「他社商品ではキッティング時に箱を開けて、商品本体をインターネットに繋がないと設定できないものがある。倉庫などで作業する関係上、インターネット回線をわざわざ用意するのは非常に面倒だ」という意見を頂きました。
この意見によって、キッティングする場所にインターネット回線を用意しなくても済む機能が必要だと分かりました。
伊藤氏 そこで、キッティングする場所にインターネット回線が無い場合は、「キキNavi 機器登録アプリ」というスマホアプリを使って機器情報を登録できるようにしました。
対応機器の箱に貼付されているステッカーのQRコードをアプリで読み取ると、スマホからクラウド経由で機器情報を登録することができます。クラウドへの機器情報の登録まで済ませれば、登録した機器に対する設定は後からインターネット回線につながった別のPCから行えるため、キッティングする場所にインターネット回線がなくても済むのです。
―― ヒアリングで要望は出たものの、実装を見送った機能もあるのでしょうか。
田村氏 あります。例えば「WebAPI」を用意して欲しいという話がありました。要するに、他社様のクラウドサービスと連携できるようにしてほしいという要望です。大規模なSIerさんの場合、独自のクラウド基盤を持っていることもあるので、そこから利用できるようにしたいという意図です。
しかし、これも使うユーザーがかなり限られることが目に見えています。なので、対応を見送る判断をしました。
新機能のテストはユーザーの協力を得て実施
―― こうしたヒアリングを経た後で、機能の開発はどのように進められるのでしょうか。
富山氏 まず、私たちである程度の要件定義を行って、コンセプト(方向性)を固めます。それを販売店やユーザーの皆さんに展開して、要望に合っているかどうか確認を取ります。
この確認が取れ次第、実際の開発作業に着手し、当社内で評価を行った後、協力いただける方に対して先行リリースを行って、実環境でお試しいただきます。
実環境でのテストは最終確認という位置付けで、「ここはこうして欲しい」「このUIはこっちの方が見やすい」といったご意見は極力反映するようにしています。導入する販売店やユーザーの皆さんにとっては、導入前検証の役割にもなっているかと思います。
こうした過程を経ることで、“抜け漏れ”のない、自信を持っておすすめできる商品ができると考えています。
徹底した“お客さま目線”から生まれる商品とサービス
―― これからリモート管理サービスの導入を検討する企業に向けて、「キキNavi」の魅力を改めて教えてください。
伊藤氏 情シスとSIer/保守・管理会社の双方にとって使い勝手のよい仕様となっていることが強みだと考えています。
例えば、海外企業の場合は、ユーザー企業の情シス部門が自ら設定を行うことが多く、ネットワークの構築方法も企業がそれぞれに作り込む傾向にあります。一方で、日本企業の場合は、販売店やSIerが設定を行うケースが多く、販売店やSIerの「フォーマット(様式)」を“流用して”ユーザー企業ごとのネットワークを構築する傾向にあります。
日本企業であるバッファローは、そのような国内企業の事情を熟知しています。ヒアリングさせていただいた内容も踏まえた上で、情シスとSIer/保守・管理会社の双方にとって使いやすい仕様にできるのです。
富山氏 当社は、国内のコンシューマー(個人)向けネットワーク機器では長年高いシェアを維持しています。このことによって、各種ベンダーや部材メーカーなどサプライヤーとの強固なパートナーシップを築けました。
このパートナーシップを生かして、商品やサービスを安定して供給できることも当社の強みの1つです。世界的な半導体不足やサプライチェーンの混乱で部材調達が困難な中、当社も供給に問題が生じることが全くなかったわけではありませんが、主力のWi-Fiアクセスポイントなど、多くの商品で安定供給を実現できています。
海外メーカーの場合、商品の国内在庫を一定の間隔でまとめて確保する傾向にあります。そのため、お客さまが「欲しい」と思ったタイミングでまとまった数の機器を購入できない可能性もあります。それに対して、当社では常に安定して在庫を確保するようにしているので、供給面で安心して選んでいただけます。
そして、冒頭でも述べましたが、「キキNavi」はルーター/スイッチやアクセスポイント単位で保守費用がかからないことが強みです。このことは、多くのお客さまに喜んでいただける部分ではないかと思います。
他社様では、有料の保守サービスや周辺サービスにリモート管理サービスを内包しています。リモート管理サービスだけを引っ張り出して、ピンポイントで比べるのはフェアではありませんが、「保守サービスや周辺サービスは不要だけれど、リモート管理だけは使いたい」という人にとって、「キキNavi」は企業のコスト削減に大きく貢献できます。
このことは、ネットワーク機器やサービスの検討の際にぜひ思い出していただけるとうれしいです。
―― ありがとうございました。
このインタビューは、およそ90分間で行われたのだが、時間中に会話が途切れることはほとんどなかった。バッファローの担当者が商品やサービスに注ぐ“熱意”の強さが強く印象付けられた。
バッファローの法人向けネットワーク機器と、それらの機器で利用できる「キキNavi」「キキNaviクラウドゼロタッチ」は、その情熱が生み出した“Made in Japan”である。この記事を読んで少しでも気になったという人は、ぜひバッファローのWebサイトを確認してみてほしい。
中小企業のネットワーク機器の困りごと、まずバッファローに相談してみよう!
バッファローでは、法人向けネットワーク機器の導入に関する相談を受け付ける「ご相談・お問合せフォーム」を用意している。ネットワークに関する困りごとや悩みごとがあるなら、気軽に相談してみてほしい。
出典元:ITmedia PC USER (https://www.itmedia.co.jp/pcuser/articles/2301/19/news006.html)