#131 マスタリングエンジニア 間部 敬克
コピーや読み込みが素早く信頼性が高いDRAMキャッシュ搭載外付けハードディスク。マスタリングの大きな武器です
第131回目の@Professional Usersはマスタリングエンジニアの間部 敬克(マナベ タカヨシ)さん。録音された音楽を商品にするための最終クリエイティブ、マスタリングの世界で大活躍するトップエンジニア。クラウンレコードの最初のマスタリングエンジニアでもある間部さんはLAVAからYMOまで、数多くのアーティストの作品を手掛けています。そんな間部さんは昔からのバッファローユーザー。バックアップは常にバッファローの外付けハードディスクを使用していると言います。そして今回 バッファローの提供を受けて新たにDRAMキャッシュ搭載外付けハードディスク「HD-GD2.0U3D」をマスタリングのクリエイティブに導入 したとのこと。早速LAVAが間部さんが働く渋谷にあるCRSを訪れお話を伺いました。
プロクリエイターが選んだ商品
(バッファロー提供)
ドライブステーション ターボPC EX2対応 DRAMキャッシュ搭載 USB 3.0用 外付けHDD
Creator's Profile
1968年生まれ。1990年にクラウンレコード入社。レコーディングエンジニアとしてスタート。2000年頃よりマスタリングエンジニアとして活動。LAVAはじめ数々の有名アーティストの作品を手がけるようになり現在に至る。
Interview
高校時代にアランパーソンズプロジェクトの音質を作れると何故か確信しました
——僕のアルバムでもマスタリングエンジニアとして参加してくれているCRSの間部さんです。そもそもマスタリングエンジニアになっていった経緯を教えてください。
音楽を作る能力はありませんでしたが、音楽を聴くのは大好きでした。小学校の時はゴダイゴやYMOから始まり、当時近所にレンタルレコード屋さんがあったので、そこでアメリカもののジャーニーやTOTOなんかを借りまくっていました。高校時代に友達がアランパーソンズプロジェクトのアルバム「バルチャーカルチャー」を貸してくれたんですが、それを聴いて何故か僕は「この音質を作れる」と思ったんです。
——えっ、この音楽じゃなく音質?
はい(笑)。なんとなくですがレコーディングエンジニアの存在にも気付いていました。
——僕も相当音楽を聴きまくったけど、エンジニアには興味を持たなかったなあ。その感覚と発想が凄いですよね。
僕はオーディオの機器、例えばアンプやエフェクターを作るのにも興味がありました。ラジオも当時から自分で作っていましたね。結局僕は「音」が好きなので、それを突き詰めると音を出す機器を作りたくなるんです。
——僕はそうならない(笑)。もともと機械作りが好きなんですよね?
いえ、パソコンとか精密機械を作ることには興味がないんです。あくまでも音なんです。
——なるほど。それでそういった学校に行ったんですか?
はい、レコーディングエンジニアになるかオーディオメーカーの技術者になるか迷いましたが、やはりきっかけはアランパーソンズプロジェクトなので、レコーディングのミキサーになろうと決意しました。でも当時はそういった専門学校もたくさんあったわけではなかったんですが、御成門に音響技術専門学校というのがあって、19歳から21歳の2年間、そこで勉強をしました。卒業したらスタジオのエンジニアかライブのPAになりたかったんですが、そういった分野の仕事は全く見つかりませんでしたね。でも学校に定期的に求人が貼り出されるんですが、その中にひとつだけCRS(クラウンレコーディングスタジオ)の募集があったんです。結果受かりましたが、そこにはアシスタントエンジニアとして採用されました。でも僕はそれがなにをする人なのかも分からず、誰も教えてもくれませんでした。でも強制的にスタジオに入れられ(笑)、めでたくアシスタントエンジニアとしてデビューしました。アシスタントなのでそんな重要なポジションじゃないと思っていたんです。なにかお手伝い的な(笑)。そしたらとんでもない!実際はマイクのセッティングから譜面も読めないのにパンチイン(部分録音)までしなくてはならない。これを昼から夜までずっとやります。メインエンジニアは真ん中にどかんと座ってるだけ(笑)。
——それでいてメインの方は怖いよね。
はい、失敗するとみんなの前で怒られますし、灰皿も飛んできます。でもずっとスタジオの中にはいなきゃいけないし。入社して1年目には大失敗をして録音した音を全て消してしまったんです。もう土下座して上司と謝りました。
——許してくれました?
まだスタジオにミュージシャンが残っていてくれたので、渋々もう1回演奏してくれました。そんなこんなでアシスタントを5年やってメインエンジニアをやるようになったんです。休みもないし、月に130時間残業なんて当たり前でしたが、僕は音が大好きだったので充実した日々でしたね。
クラウンでは僕が最初のマスタリングエンジニアになりました
——マスタリングエンジニアにはどうやって移行していったのですか?
当時はミキサーの人がマスタリングエンジニアも兼ねていました。マスタリング専門というエンジニアは少なかったですね。でも海外にはマスタリング専門のスタジオがあって、マスタリングエンジニアと呼ばれる人達がいました。その時代は音楽業界にも予算が多くあったので、一度あるプロジェクトで日本とLAの2カ所でマスタリングをしてもらったんです。帰ってきた音を聞いて愕然としました。日本の方は音に色が全くないんですが、ロスの方はカラフルでからっとしていて突き抜けていました。一瞬聞いただけでその差は歴然でした。
——へー、面白いですね。
それで「これだ!」と思ったんです。
——それを自分でやろうと。
そうです。チャレンジしたくなりました。当時クラウンではマスタリングエンジニアという職種は存在していなくて、僕が最初のマスタリングエンジニアになりました。それもいきなり会社で「自分は今日からマスタリングエンジニアです」と宣言して勝手になりました(笑)。
——男だね(笑)。でもまだマスタリングエンジニアがメジャーではない頃にどうやって学んでいったんですか?
ネットで調べたり、海外のマスタリングエンジニアのホームページを見てどんな機材を使っているかを見たり、全て自己流でした。
——いま間部さんのマスタリングルームにあるこの興味深い機材達を教えてください。
メインで使用するのがまずWEISS(ワイス)で、これはコンプレッサーとEQ(イコライザー)の役目をします。そしてZ SYS(ゼットシステム)でこれもEQ。そしてSONTEC(ソンテック)。これはアナログのEQです(写真参照)。全てが大切な機材達です。
——知らない人もいると思うので、そもそもマスタリングという作業はどんな作業なんでしょう?
レコーディングした音をミキサーがまずトラックダウンをして仕上げ、その曲を最終的にCDにするために完成させるのがマスタリングです。車で例えるとワックスがけですね。部分部分はいじれませんが、全体を美しくすることは出来ます。それでその車は展示場に並ぶことが出来ますからね。
——非常に分かりやすい!
技術的には音量、音圧の調整、そして音色を作り出します。商品にさせる最終クリエイティブですね。
——間部さんのマスタリングルームで曲が仕上がっていく流れを教えてください。
もともと自分の機材を独自のセッティングをして型枠を作ってあります。ここに音を通すと自然と音は良くなるように出来ています。機材の組み合わせやセッティングで自分なりに工夫を凝らしてあります。その型枠からはみ出てしまうものは修正したり型に持っていく作業をします。僕はいい音はすぐに分かります。なのでそれにするだけです。でも自分が必ずしも正しいとは言えないので、それをアーティストやクライアントに聴いてもらい、笑顔が出ればOK(笑)。
——笑顔が出なかったら?
説得します(笑)。言ってみればミキシングは外科医でマスタリングは内科医。直接切ったり変えたり出来ないんです。大胆なことは出来ません。なのでワックスがけや板金です。でもその板金で音ははるかに良くなります。
——間部さんの言う「いい音」とは?
僕は色でみているんです。音を聞くと目でも見えます。音の位置関係、高さ、幅、そしてカラー、この4つがパーフェクトになればいい音です。目指すカラーはオレンジで、駄目な色はグレーです。常にオレンジを目指します。でもやっていることは数学や物理に近いです。EQも数式が決まっていますし。出来ないものは出来ないし、根性で音は良くならないんです。努力も大事ですが、このクリエイティブには天性のものもあると思います。でもアランパーソンズを聴いた時に、「この音質を作りたい」と思ったわけですから。僕はこの仕事に向いていたんだなと思えます。
マスタリングエンジニアを目指す人は音の入り口から勉強した方がいいと思います
——本当に向いていると思いますよ。天才です。さて、パソコンは当然使って仕事をしていると思いますが、まずはメインのパソコンは?
PCは独Cube-Tec社製の「AudioCube」、OSはWindows XPです。マスタリングソフトもドイツのもので「Magix Sequoia」を使っています。以前は「LiquidSonics Illusion」を使用していました。Sequoiaは操作方法や考え方がLiquidSonics Illusionに似ていますね。僕のクリエイティブはパソコンを使って全てを行っています。ここでは2台のパソコンを使っています。サンプリング周波数が2台で違います。トラックダウン済みの音は48kHzか96kHzのハイサンプリングで持ち込まれることが多いです。CDのスペックは16bitの44.1kHz。ハイサンプリングのものをCDのスペックに変換するので2台のパソコンを用意してあります。16bitの44.1kHzに変換しても音は劣化して聞こえないよう2台を駆使して使っています。外付けハードディスクは常に自分の作った音のバックアップとして使用しています。過去のデータも殆ど全てがバッファローの外付けハードディスクに入っています。バッファローに関しては好きで信頼感もあり、当然のように使っています。現在は2台のバッファローの外付けハードディスクをスタジオでは使用していて、1台は少し古い型ですが、FAT32のフォーマットにして、WindowsでもMacでも読み込めるようにしてあります。ここではWindowsとMacの2台のパソコンを使っているので、このハードディスクを使ってその2台がやりとり出来るようにしています。新しく導入したバッファローの「HD-GD2.0U3D」はMac OS拡張というフォーマットにしてMac専用で使っています。バックアップも兼ねてはいますが、マスタリングをする作業の前にクライアントが持ち込んだ音のデータファイルを入れておく大切な外付けハードディスクです。そこから「Pro Tools」という音楽ソフトに取り込んで作業をしていきます。クライアントのハードディスクは使いません。人のものですし事故があったら大変ですからね。なのでまずは自分の領域にコピーしていきます。それがこの「HD-GD2.0U3D」です。まずはマスタリングの作業をスタートさせるための大切なデータの保管先として働いてもらっています。それと我々も決められた時間の中で作業をしていますから、このDRAMキャッシュ搭載モデルのようにコピーや読み込みが速いのは助かりますね。
——マスタリングエンジニアとして外付けハードディスクの大切なポイントは?
長期保存のきく、信頼性のあるハードディスクがやはりいいです。過去に使ったデータをまた使うことも多々ありますし、ストックしておくことはこういった意味でも大切ですね。実際僕は何年も前から手掛けた全ての「いい音」をバッファローのハードディスクに保存していっています。その日作業したもののバックアップをとらない日はありません。もうこれは習慣ですよね。そして信頼がおけるブランドに出会えたことも大きいですね。
——どうもありがとうございます。さらに間部さんの「いい音」が聴けることを楽しみにしています。では最後にマスタリングエンジニアを目指す人達にメッセージをお願いします。
いきなりマスタリングエンジニアになるのではなく、音の入り口から勉強した方がいいと思います。基本のレコーディングやマイク選び、マイクの立て方、ミキシング。その延長上にあるのがマスタリングです。まず手始めにミックスの勉強をすることで、その分知識が豊富になりますし、難しいことにもチャレンジ出来るはずです。
——今日はどうもありがとうございました。
Interview Photos
東京、渋谷にあるマスタリングスタジオ、CRS。整頓され、とてもすっきりしたスタジオなので、そのことを言うと、本人は「キレイじゃないとスタジオは駄目です。マスタリングエンジニアもキレイ好きじゃないと務まらないと思います」とキッパリ。僕もそう思います。
間部さんのマスタリングワークの3大ウェポン、WEISS(ワイス)、Z SYS(ゼットシステム)、そしてSONTEC(ソンテック)。これらを駆使して間部サウンドが構築されていきます。僕にはどこのなにをさわっているのか直接見てもさっぱり分かりませんが(笑)。
2002年リリースの僕のセカンドアルバム "Mundo Novo"。ここから間部さんとの付き合いは始まりました。とにかくマスタリングの大切さを教えてくれたのは彼でしたし、彼以外のマスタリングエンジニアとやればやるほど、間部さんのエンジニアリングの偉大さを痛感するのです。インタビューにもあったように、「自分の所に来れば必ずいい音になる」と言いきるプロとしての立ち位置が素晴らしいですね。
スタジオのメインパソコン「AudioCube」とバッファローの外付けハードディスクに保存されている過去の「いい音たち」。ちなみにこれは氷山の一角。間部さんのようなこだわりの男がバッファローのハードディスクを愛していることが嬉しいですね。
そして間部さんが最近導入したというバッファローのDRAMキャッシュ搭載外付けハードディスク「HD-GD2.0U3D」です。クライアントが持って来たデータをまずは最初にこの「間部テリトリー」にコピーすることでマスタリングワークがスタートすると言います。まさに開始のゴングをこのハードディスクが鳴らすわけです。「バッファローという信頼がおけるブランドに出会えたことも大きいですね」というのも嬉しい言葉です。
作業中の間部さん。僕は何年もの間、彼のスタジオで、彼の作業する後ろのソファで、彼の背中を眺めながらそのマスタリングワークを直視してきましたが、時間をかけずにまずはその独自の直感で音を修正していく、音を正しい方向に持っていく技は見事というしかないですね。間違いなく「いい音」になります。
僕は自分のレコーディングエンジニアとマスタリングエンジニアを昔から変えていません。これはとても幸せなことなんです。最初から決定的なスタッフに出会えるのですから。彼等がいなければおそらく僕はアルバムを出さないと思います。それぐらいマスタリングエンジニアも重要なポジションにいます。さらに磨きをかけて、さらなる「いい音」を間部さん、追求してくださいね!
Creator's Favorite Foods
間部 敬克の好きな料理 “この一品!”「シブツウの六四ハンバーグ」
間部さん曰く、「シブツウは加藤牛肉店の特選三元豚を使用している人気のお肉レストラン。そこの六四ハンバーグはジューシーでコクもあり、癖になるハンバーグです。 夜は鉄板焼きも充実しています。スタジオの前にあるのでどうしても行ってしまいますね(笑)。」
今回登場した商品
ドライブステーション ターボPC EX2対応 DRAMキャッシュ搭載 USB 3.0用 外付けHDD