VLANとは? わかりやすく解説<2025年版>

企業ネットワークの構築において、VLANは欠かせない基本技術の一つとなっています。社内の部門ごとにネットワークを分けたい、来客用の通信を分離したい、複数のフロアをまたいで同じ部門のネットワークを構築したいなど、さまざまなニーズに対してVLANは柔軟に対応できます。本記事では、VLANとは何か、どのような場面で必要とされるのか、基本的な仕組みから具体的な活用方法までをわかりやすく解説します。

1.VLANとは~仮想的にネットワークを分割できる技術~

VLAN(Virtual LAN)は、1台のスイッチで複数の仮想的なネットワークを構築できる技術です。

以下の図の左側に記すとおり、オフィスビルの1階と2階にそれぞれ部署があり、ファイルサーバーなどのネットワーク機器を利用する環境で考えてみましょう。

このケースでは物理的な制約により、各フロアの部署をまとめて1つのネットワークとして構築する必要がありました。そのため、異なるフロアに配置された同じ部署のメンバーどうしがネットワーク上で直接連携することができません。

そこでVLANを使用した構成にすると、異なる部署どうしの通信を制限しながらもフロアをまたいで部署単位でネットワークを分割することができますので、物理的な制約を超えて組織の構成に合わせたネットワークを構築できます。例えば上記の図の右側に記すとおり、1階と2階の部署Aを同一のネットワークに、同様に1階と2階の部署Bも同一のネットワークとして構築することが可能です。

このようにVLANを使うことで、組織のニーズに合わせた柔軟なネットワーク構成を実現できます。ここで、VLANの主な特徴を見ていきましょう。

1-1.設定による柔軟なネットワーク構成

1台のスイッチで複数のネットワークを管理できるため、機器の削減とケーブル配線の簡素化が可能です。また、部署単位での通信制御や社員・ゲスト間のネットワーク分離など、組織の要件に応じたさまざまなネットワーク構成を実現できます。ユーザーの追加や移動も、配線を変更することなく設定だけで対応可能です。

1-2.ネットワークの混雑を緩和できる

VLANを使用すると、ブロードキャストドメインを適切な大きさに分割できます。通常、ネットワーク上の各パソコンが送信するブロードキャストパケットは、すべての機器に届いてしまいます。しかしVLANでブロードキャストドメインを分割することで、ブロードキャストパケットの到達範囲が限定され、不要なトラフィックを抑制できます。

1-3.トラブルの影響範囲を限定的にできる

VLANごとにトラフィックを制限することで、ネットワークの安全性が高まります。重要なデータを扱う部署と一般業務の部署でネットワークを分離できるため、情報漏洩のリスクを低減できます。また、ネットワーク障害やウイルス感染が発生した場合も、その影響を特定のVLAN内に封じ込めることができます。

2.VLANの主な種類と設定方法

VLANの種類別の特徴を以下にまとめました。

2-1.ポートVLAN:物理ポートごとにVLANを割り当て

ポートVLAN(ポートベースVLAN)は、スイッチの物理ポートごとにVLANを割り当てる最も基本的な方式です。スイッチの各ポートに任意のVLAN IDを設定することで、同じVLANに所属するポート間でのみ通信が可能になります。各ポートはアクセスポートとして設定され、VLANの基本的な実装方法として広く使用されています。

ただし、ポートVLANには制限もあります。複数のスイッチをまたいでVLANを構築する場合、VLANごとに専用の物理ポートとケーブルが必要となり、配線が複雑になってしまいます。この課題を解決する方法として、後述するタグVLANが用いられます。

なお、バッファロー製スマートスイッチの設定画面上では、アクセスポートは「Untagged」として表示されます。設定例として、総務部が属するVLANと経理部が属するVLANを分割する方法を紹介しています。詳細は以下をご参照ください。

2-2.タグVLAN:複数台のスイッチで管理

先に述べたように、ポートVLANでは複数のスイッチをまたぐ構成において配線が複雑になるという課題がありました。タグVLANはこの課題を解決する技術です。

タグVLANでは、端末から送信されたフレームにVLAN識別用のタグ情報を付与します。この機能を持つポートは「トランクポート」と呼ばれます。これにより、1本のLANケーブルで複数のVLANのデータを伝送できます。タグ情報によって、同じケーブル内を流れるデータがどのVLANに所属しているのかを識別するためです。

このタグ付けの仕組みは、IEEE 802.1Q規格として標準化されています。

memo:IEEE 802.1Q規格とISLについて

トランクリンク(スイッチ間を接続する回線)上でフレームにタグと呼ばれる情報を挿入してVLANを識別します。また、タグを付けないVLANとして「ネイティブVLAN」を1つ設定できます。ネイティブVLANのVLAN IDは、トランクリンクの両端で同じ値に設定する必要があります。

トランクポートでの通信方式には、シスコ社が開発したISL(Inter-Switch Link)という独自規格も存在しま す。一方、IEEE 802.1Q規格は、異なるメーカーの機器が混在するマルチベンダー環境での相互運用性に優れており、幅広い環境で採用されています。

なお、バッファロー製スマートスイッチでは、「トランクポート」は「Tagged」、「ネイティブVLAN」は「PVID」で設定します。設定例として、製品2台をLANケーブル1本で接続し、総務部が属するVLANと営業部が属するVLANを分割する方法を紹介しています。詳細は以下をご参照ください。

2-3.プライベートVLAN:ポート間通信を制御

プライベートVLANは、VLAN内でさらに詳細な通信制御を行える機能です。主に、特定のポート間の通信を遮断しながら、共有する機器へのアクセスのみを許可したい場合に使用します。代表的な活用例として、マンションやホテルにおいて、各部屋間の通信を遮断しつつ、インターネットへの接続のみを許可する構成が挙げられます。

memo:プライベートVLANの分類

プライベートVLANは、プライマリVLANとセカンダリVLANによって構成されます。
プライマリVLANは、プライベートVLANの基本となるVLANです。ルーターやサーバーなどの共有リソースとの通信を担います。

セカンダリVLANは、プライマリVLAN内のポートをグループ化し、ポート間の通信を制御します。セカンダリVLANには以下の2種類があります。

アイソレートVLAN:
 各ポートを完全に分離し、プライマリVLANとの通信のみを許可します。

コミュニティーVLAN:
 プライマリVLANとの通信に加え、同じコミュニティーVLAN内のポート間でも通信が可能です。異なるコミュニティーVLAN間の通信は禁止されます。

なお、バッファロー製スマートスイッチの設定画面上では、各ポートにポートVLANを設定する「インターネットマンションモード」により、アイソレートVLANと同様の通信制御を実現できます。

設定例として、マンション住人の部屋ではインターネットのみ接続可能とし、部屋間の通信は禁止する方法を紹介しています。詳細は以下をご参照ください。

2-4.マルチプルVLAN:共通ポートへのアクセス制御

マルチプルVLANは、複数のVLANグループから特定のネットワーク機器にアクセスできるようにする技術です。マルチプルポートとして設定されたポートは、すべてのVLANグループに所属します。このポートには、共有するファイルサーバーやプリンターなど、すべてのVLANグループで利用する機器を接続して使用します。

例えば下記の図のように部署間の直接通信は禁止しつつ、ファイルサーバーへのアクセスは許可するといった使い方が可能です。

ただし、マルチプルポートからのブロードキャスト/マルチキャストパケットは全ポートに送信されるため、接続端末が多くなるとネットワークの速度低下を招く可能性があります。

バッファロー製スマートスイッチの設定例として、総務部が属するVLANと営業部が属するVLANに分割し、ルーターやサーバーを接続するポートをマルチプルポートにする方法を紹介しています。詳細は以下をご参照ください。

2-5.MACベースVLAN:機器認証による制御

MACベースVLANは、端末のMACアドレスに基づいてVLANを割り当てる技術です。各端末のMACアドレスをあらかじめ認証サーバーに登録しておくことで、ネットワークに接続される機器を管理できます。

下記の図では、未登録の機器からファイルサーバーへのアクセスを防ぐ構成を示しています。

この技術は、社用端末と個人所有デバイスを別々のネットワークに分けたり、特定の部署の端末だけがファイルサーバーにアクセスできるように制御したりする場合にも活用できます。

2-6.ユーザーベースVLAN:認証による柔軟な制御

ユーザーベースVLANは、ログインするユーザーごとにVLANを割り当てる技術です。認証の状態に応じて、自動的にVLANの割り当てが切り替わります。

この動的なVLAN割り当ての仕組みは「ダイナミックVLAN」と呼ばれ、IEEE 802.1X認証を使用します。例えば、認証されたユーザーはファイルサーバーにアクセスでき、認証されないユーザーは「ゲストVLAN」に割り当てられてインターネットのみにアクセスできる、といった使い分けが可能です。

バッファロー製スマートスイッチの設定例として、ユーザーごとに社内サーバーにアクセスできるようにしたり、インターネットのみ接続できるようにする方法を紹介しています。詳細は以下をご参照ください。

2-7.サブネットベースVLAN:IPアドレスによる自動割り当て

サブネットベースVLANは、端末のIPアドレスに基づいてVLANを割り当てる方式です。例えば、特定のIPアドレス範囲に属する端末を同じVLANに所属させるといった設定が可能です。

MACベースVLANでは機器を入れ替えるたびに設定変更が必要でしたが、サブネットベースVLANでは端末のIPアドレスが同じ範囲内であれば設定変更は不要です。これにより、端末の入れ替えや追加を柔軟に行うことができます。

2-8.音声VLAN:音声データ用の優先制御

音声VLAN(Voice VLAN)は、IP電話などの音声通信とPCなどのデータ通信が混在する環境で、音声品質を確保するための機能です。音声トラフィックに対して自動的にVLANを割り当て、高い優先度で転送することができます。

この機能を使用すると、音声トラフィックは他のデータ通信から分離され、通信が混雑している場合でも、音声の遅延や途切れを防ぐことができます。これは、通常のデータ通信よりも優先的に処理されるためです。

なお、音声通信の優先制御は、音声VLAN機能がない機器でもQoS設定により代替が可能です。QoS(Quality of Service)とは、特定の通信に優先順位をつけることで品質を確保する機能です。

QoSを実現する方式の一つがDiffServ(Differentiated Services)です。DiffServを使用することで、通信の種類に応じて優先度を設定し、重要な通信を優先的に処理することができます。音声通信の品質確保が必要な場合は、このDiffServ機能を使用した優先制御の設定も選択肢の一つとなるでしょう。

バッファロー製スマートスイッチの設定例として、IP電話の通信を最優先で処理する方法を紹介しています。詳細は以下をご参照ください。

これまで説明してきたように、VLANを使用することで柔軟なネットワーク構成が可能になります。しかし、大規模なネットワークでは信頼性を確保するために、スイッチ間を複数の経路で接続する必要が出てきます。このような冗長構成を安全に運用するために、STPという技術が使用されます。

3.スパニングツリープロトコル (STP):VLANネットワークの冗長化技術

3-1.STPの役割

主に以下の2つの役割を担っています。

まず、ネットワークにループ(輪っか状の経路)が発生するのを防ぎます。スイッチどうしを冗長接続した場合、ブロードキャストパケットが無限にループしてしまう「ブロードキャストストーム」が発生する可能性があります。STPはこのような状況を防ぐため、自動的に最適な通信経路を選択し、ループを防止します。

また、通信経路の冗長化も実現します。複数の経路がある場合、一方を通常使用する経路として選択し、もう一方を待機状態にします。これにより、使用中の経路に障害が発生した場合でも、自動的に待機経路に切り替えて通信を継続できます。

3-2. STPの発展とMSTP

STPは、ネットワーク技術の進化とともに発展してきました。当初のIEEE 802.1Dで規定された標準的なSTPでは、複数のVLANが存在する環境でも1つのスパニングツリーしか構成できませんでした。

その後、通信の高速化や効率化のニーズに応えて、IEEE 802.1wとして高速スパニングツリープロトコル(RSTP)が標準化されました。RSTPは、ネットワーク障害時の経路切り替えを高速化することで、通信の信頼性を向上させています。

さらに大規模なVLAN環境に対応するため、IEEE 802.1sとしてMSTP(マルチプルスパニングツリープロトコル)が標準化されました。MSTPの特徴は、複数のVLANをグループ(インスタンス)として管理できる点です。各インスタンスで個別に最適な通信経路を設定できるため、ネットワークの効率的な運用が可能になります。バッファロー製スマートスイッチは、この標準規格のMSTPをサポートしています。

3-3.設定方法

バッファロー製スマートスイッチの設定例として、以下の2点を実現する方法を紹介しています。

1つの経路が通信不能になっても、代替の経路で通信できるようにする。

VLANごとにサーバーへ最適な経路で通信できるようにする。

詳細は以下をご参照ください。

4.VLANの活用事例

VLANはさまざまな場面で活用されています。ここでは、代表的な活用事例として、マンション・ホテルでのネットワーク構築についてご紹介します。

4-1. マンション・ホテルでの入居者別ネットワーク

集合住宅やホテルでは、多数の利用者が同じネットワークを使用します。そのため、利用者間の通信を適切に制御し、プライバシーを確保することが重要です。

VLANを活用することで、各部屋間の通信を遮断しながら、インターネットへのアクセスを提供するという構成が実現できます。バッファロー製スマートスイッチでは、この用途に特化した「インターネットマンションモード」を搭載しています。1台のスイッチで入居者(または宿泊者)ごとにネットワークを分離し、快適で安全なネットワーク環境を提供することができます。

詳しくは以下をご参照ください。

5. VLAN構築におすすめのバッファロー製品

5-1. 法人向けスイッチ

5-1-1.スマートスイッチ

VLANやQoSをはじめ、IPルーティング、SNMP、スパニングツリーなど、中~大規模ネットワークの構築・運用に対応する機能を搭載した高機能スイッチです。WebUIによる詳細な設定が可能で、柔軟なネットワーク管理を実現できます。

PoE(Power on Ethernet)給電対応モデル

5-1-2.スマートLiteスイッチ

VLAN機能、QoS機能など、小~中規模ネットワークの構築・運用に必要な基本機能を搭載しています。スマートスイッチと比較して低コストでの導入が可能です。

スマートLiteスイッチ PoE給電対応モデル

5-2. 法人向けルーター

6.VLAN 関連プロトコルと標準規格

VLANの設定や運用では、さまざまなプロトコルや機能が使用されます。中でもスイッチ間の接続方式や機器管理に関する技術は、メーカー独自の規格と、IEEE(電気電子技術者協会)で標準化された規格が存在します。

複数のスイッチにまたがるVLAN環境では、機器の管理や設定の効率化が重要な課題となります。この課題に対し、各メーカーは独自のプロトコルを開発してきました。代表的な例として、シスコ社が開発したCDP、DTP、VTP があります。これらのプロトコルについての概要と 対応する標準規格について解説します。

6-1. CDP(Cisco Discovery Protocol):ネットワーク機器の自動検出

ネットワーク上の隣接する機器を検出し、その情報を収集するためのプロトコル です。シスコ社の独自プロトコルであるため、シスコ製品間でのみ使用可能です。

現在では、同様の機能がLLDP(Link Layer Discovery Protocol、IEEE 802.1AB)として標準化されており、マルチベンダー環境での機器管理に活用されています。

6-2. DTP(Dynamic Trunking Protocol):トランクポートの自動設定

スイッチどうしを接続した際に、接続されたポートの動作モードを自動的に決定するプロトコル です。例えば、片方のスイッチのポートがトランクポートとして設定されている場合、もう片方のスイッチのポートも自動的にトランクポートとして設定されます。このプロトコルはシスコ製品間でのみ使用可能です。

6-3. VTP(VLAN Trunking Protocol):VLAN設定の自動同期

複数のスイッチにまたがるVLAN環境で、VLAN設定作業を効率化するためのプロトコル です。例えば、VLANを新規作成する場合、通常は接続されている各スイッチで同じVLAN IDとVLAN名を設定する必要がありますが、VTPを使用すると1台のスイッチで設定するだけで他のスイッチにも自動的に設定が反映されます。このプロトコルもシスコ製品間でのみ使用可能です。

7.まとめ

本記事では、VLANの基本的な仕組みからさまざまな種類、設定方法まで解説しました。VLANを活用することで、物理的な配線を変更することなく柔軟なネットワーク構成が可能になり、セキュリティの向上やネットワーク管理の効率化を実現できます。

バッファローでは、さまざまなVLAN機能を搭載したスマートスイッチをラインナップしていますので、ネットワーク構築の際はぜひご検討ください。