QoS(Quality of Service)とは? わかりやすく解説<2025年版>

クラウドIP電話やビデオ会議システムなど、日常的に利用するネットワークサービスの高度化・多様化によって、オフィスネットワークの通信遅延や品質低下への対策はオフィスの情報インフラを守る情報システム部門にとって避けられない課題となっています。本特集では、そうした課題の解決に役立つ、限られたネットワーク資源を効率的に利用するための技術「QoS(Quality of Service)」について、その基本から具体的な設定例までを詳しく解説します。

1.QoS(Quality of Service)とは

QoS(Quality of Service)とは、ネットワーク上でサービスの品質を確保するために通信の種別ごとの優先度付けを施す技術やしくみの総称です。オフィスネットワークでは、Web閲覧、メール、ファイル共有、音声通話、ビデオ会議など、さまざまなデータが同時に流れています。しかし、これらのデータは混雑すると、通信が遅れたり、途切れたりしてしまいます。特に、IP電話の音声通話やビデオ会議のように「リアルタイム性」が重要な通信は、少しの遅延や途切れでも大きな問題になります。QoSは、このような状況で特定の重要な通信を優先的に処理し、安定した品質を保つためのしくみです。例えるなら、高速道路で緊急車両が一般車両よりも優先して走行できるようなイメージです。これにより、限られたネットワークの帯域を賢く使い、利用者がストレスなくサービスを利用できるようにします。

2.QoSの種類

QoSモデルには、主に「IntServ(Integrated Services)」「DiffServ(Differentiated Services)」「ベストエフォート」の3つがあります。

IntServ

通信を開始する前に、ネットワーク全体で必要な帯域を予約することで、エンドツーエンドの品質を保証します。高い品質を保証できますが、全てのネットワーク機器が予約情報を管理する必要があり、大規模ネットワークでの拡張性に課題があります。

DiffServ

ネットワークのエッジ部分でパケットを分類・マーキングし、コアネットワークではそのマークに基づいて「Per-Hop Behavior (PHB)」と呼ばれる優先処理を行います。各機器がフローごとの状態を保持しないため、IntServに比べて拡張性に優れています。

ベストエフォート

QoSによる制御が行われていない状態を指します。パケットは到着順に処理され、ネットワークが混雑すると遅延やパケットロスが発生する可能性があります。

「DiffServ」は、通信を開始する前にネットワーク全体で必要な帯域を予約することで優先制御を行う「IntServ」において、すべてのネットワーク機器が予約情報を管理する必要があり大規模ネットワークでの拡張性に課題があった反省を踏まえて考案されたQoSモデルです。

現在、一般的にQoSといえばDiffServを指すことが多く、オフィスの有線LANネットワークのQoS方式として広く採用されています。DiffServはフレームのVLANタグやIPヘッダの一部を用いてさまざまな種類の通信に異なる優先度を設定することにより、音声やビデオのようなリアルタイム性が重要な通信には低遅延を、ファイル転送のような大量データ通信には高スループットを確保するなど、柔軟な品質管理を提供します。

3.DiffServのしくみ

DiffServは、ネットワークを流れる「データパケット」と呼ばれる小さな情報のかたまりを制御することで実現されます。以下の4つのステップで構成されます。

1.分類(Classification):

まず、ネットワーク機器は受信したデータパケットが「何の通信か」を識別します。例えば、「これはビデオ会議のデータだ」「これはWebサイト閲覧のデータだ」といった具合に、種類や重要度に応じてグループ分けします。

2.マーキング(Marking):

次に、分類されたパケットに「このパケットは優先度が高い」「このパケットは通常」といった目印(マーク)を付けます。このマークは、パケットのヘッダ部分(データの先頭情報)に書き込まれます。例えるなら、荷物に「至急」や「通常」といったラベルを貼るようなものです。

3.キューイング(Queuing):

マークされたパケットは、ネットワーク機器内部にある「キュー」と呼ばれる一時的な待機場所(貯蔵庫)に格納されます。優先度が高いパケットは専用のキューに入ったり、他のパケットよりも先に処理されるキューに入れられたりします。もしキューがいっぱいになりそうになったら、優先度の低いパケットを一時的に破棄して、重要なパケットを守ることもあります。

4.スケジューリング(Scheduling):

最後に、複数のキューに待機しているパケットのうち、どのパケットをどの順番でネットワークに送り出すかを決定します。優先度の高いキューのパケットから優先的に送ることで、遅延を最小限に抑え、必要な通信品質を確保します。

これらのステップが連動することで、DiffServはネットワークの混雑時でも、重要な通信を円滑に進めることを可能にしています。

4.有線LANのQoS

DiffServ優先制御の種類

DiffServでは、主に以下の定義がQoSの優先制御に利用されます。

CoS (IEEE 802.1p Class of Service)

イーサネットフレームのVLANタグ(IEEE 802.1Q)内の3ビットのフィールド「PCP (Priority Code Point)」を使用し、8段階(0~7)の優先度を定義します。レイヤー2(L2:データリンク層)で動作し、L2スイッチなどの機器で優先制御を行う際に用いられます。特にVLANを扱うオフィスネットワーク環境下でのトラフィック優先順位付けに有効です。

IP Precedence

IPv4ヘッダ内の8ビットのフィールド「ToS(Type of Service)フィールド」の先頭3ビットを使用し、8段階(0~7)の優先度を定義します。レイヤー3(L3:ネットワーク層)で動作し、ルーターやL3スイッチなどの機器で優先制御を行う際に用いられます。後述のDSCPの方がよりきめ細やかな優先度設定が可能なため、現在ではDSCPがDiffServモデルの主流となっています。

IP Precedence値一覧
10進値 意味
0 0 ルーチンまたはベストエフォート
1 1 プライオリティ
10 2 即時
11 3 フラッシュ
100 4 フラッシュオーバーライド
101 5 クリティカル:主にRTP(音声・映像をストリーミング再生するための通信プロトコル)に使用されます。
110 6 インターネット
111 7 ネットワーク

一般的に、データトラフィックはIP Precedence 0、音声・映像トラフィックはIP Precedence 5に設定します。

DSCP(DiffServ Code Point)

現在のレイヤー3(L3:ネットワーク層)におけるDiffServモデルの中核を成すマーキング方式です。「ToSフィールド」を「DS(Differentiated Services)フィールド」として再定義し、先頭の6ビット(DSCP値)を使用して64段階(0~63)の優先度を定義します。ルーターやL3スイッチがこの値を見て、優先制御や帯域制御を行います。VoIPやストリーミングなど、多様なIPトラフィックの品質管理に広く利用されています。

一般によく使用されるDSCP値
DSCP値 10進値 意味 廃棄確率 等価なIP Precedence値
000 000 0 ベストエフォート N/A 000(0):ルーチン
001 000 8 CS1   001(1):プライオリティ
001 010 10 AF11 001(1):プライオリティ
001 100 12 AF12 001(1):プライオリティ
001 110 14 AF13 001(1):プライオリティ
010 000 16 CS2   010(2):即時
010 010 18 AF21 010(2):即時
010 100 20 AF22 010(2):即時
010 110 22 AF23 010(2):即時
011 000 24 CS3   011(3):フラッシュ
011 010 26 AF31 011(3):フラッシュ
011 100 28 AF32 011(3):フラッシュ
011 110 30 AF33 011(3):フラッシュ
100 000 32 CS4   100(4):フラッシュオーバーライド
100 010 34 AF41 100(4):フラッシュオーバーライド
100 100 36 AF42 100(4):フラッシュオーバーライド
100 110 38 AF43 100(4):フラッシュオーバーライド
101 000 40 CS5   101(5):クリティカル
101 110 46 高優先順位(EF) N/A 101(5):クリティカル
110 000 48 CS6   110(6):インターネット
111 000 56 CS7   111(7):ネットワーク

バッファローのスマートスイッチは、本項で紹介した「CoS」「IP Precedence」「DSCP」の3種すべてをサポートしています。

5.Wi-FiのQoS

Wi-Fi(無線LAN)におけるQoSは、主にIEEE 802.11eという規格で規定されており、無線環境特有の課題に対応するために設計されています。有線LANとは異なり、Wi-Fiは電波干渉や距離による信号強度の変化など、不安定要素が多いことが特徴です。IEEE 802.11eは、このような無線環境で音声やビデオのようなリアルタイム通信の品質を保証するため、以下の2つのアクセス方式を定めています。

EDCA(Enhanced Distributed Channel Access)

WMM(Wi-Fi Multimedia)としてWi-Fi Allianceで認定されている方式で、従来Wi-Fiが採用していたCSMA/CA(Carrier Sense Multiple Access with Collision Avoidance:複数の端末が同時に通信しようとすることで発生する衝突を回避するための技術)を改良したものです。EDCAでは、データに「アクセスカテゴリ(AC)」という優先度を割り当てます。例えば、音声データは高い優先度、Web閲覧データは通常の優先度といった具合です。優先度の高いデータは、電波が空くのを待つ時間が短く設定されたり、送信を試みる間隔が短くなったりするため、他のデータよりも早く電波を使うチャンスを得られます。これにより、比較的シンプルなしくみで、音声やビデオなどのリアルタイム通信を優先的に処理することが可能になります。

HCCA(Hybrid Coordination Function Controlled Channel Access)

集中制御型のアクセス方式で、アクセスポイント(Hybrid Coordinator: HC)がステーションをポーリングし、送信権(TXOP: Transmit Opportunity)を割り当てることで、より厳密な帯域保証と低遅延を実現します。EDCAよりも複雑ですが、リアルタイム性が極めて重要なアプリケーション(例:ビデオ会議、産業用制御システム)に対して、より確実なQoSを提供できます。HCCAはEDCAと併用されることがありますが、より高度な制御を必要とします。

EDCAは分散型で柔軟性が高く、一般的なWi-Fi環境で広く利用されています。一方、HCCAは集中制御型でより高い品質保証が可能ですが、対応する機器や設定の複雑さから、特定の用途に限定して利用されることが多いです。

IEEE 802.11e規格でQoSが保たれるのはWi-Fi区間のみで、有線LAN部分へは「優先制御マッピング」により優先度が引き継がれます。

Wi-Fiから有線LANへの優先制御マッピング

有線LAN側がL2の有線制御(CoS)の場合も、L3の優先制御(IP Precedence、DSCP)の場合も、下記のようなマッピングを経て有線LAN側に送受信されます。

WMM(EDCA) CoS優先度
IP Precedence値
AC_VO(最優先) 6、7
AC_VI(優先) 4、5
AC_BE(通常) 0、3
AC_BK(低い) 1、2

なおバッファローのWi-Fiアクセスポイント・法人向けWi-Fiルーターは、EDCA規格をサポートしています。

6.QoSの利用イメージ

QoSを利用することで、通信帯域が不足する経路においてもリアルタイム性が求められる通信を優先的に処理することで安定した通信の提供を実現します。

QoS(CoS、IP Precedence、DSCP)を利用しない場合

QoS(CoS、IP Precedence、DSCP)を利用した場合

Wi-FiのQoS(EDCA)を利用した場合


7.QoS対応の法人向けネットワーク製品

バッファローでは、主要なQoS規格「DiffServ」に対応したスマートスイッチ、「WMM」に対応したWi-Fiアクセスポイントをラインナップしていますので、オフィスのネットワーク構築の際はぜひご検討ください。

スマートスイッチ

マルチギガ(10G/5G/2.5G)対応
PoEスマートスイッチ
スマートLiteスイッチ
GbE(1G)対応
PoEスマートスイッチ
PoEスマートLiteスイッチ

Wi-Fiアクセスポイント

法人向けWi-Fiルーター

8.まとめ

本記事では、QoSのしくみからさまざまな種類、設定方法まで解説しました。IP電話やビデオ会議システムは、日々の業務において不可欠なインフラです。それが当たり前になったオフィスで、通信の途切れや遅延は生産性を著しく損ないます。QoSはネットワークの混雑時でも重要な業務通信を優先処理し、安定した品質の確保に役立つ技術です 。限られたLANの帯域を最大限に活用してストレスなく業務を進めるためにも、QoSを上手に活用してみましょう。

関連リンク