鹿児島市内120校へアクセスポイントを導入 教育コンテンツをタブレットから活用し 新しい授業スタイルの確立へ

鹿児島市教育委員会 様

鹿児島市教育委員会 学習情報センター 主幹 山下聖和 氏(左 以下、山下氏)、鹿児島市教育委員会 学習情報センター 指導主事 木田博 氏(右 以下、木田氏)

鹿児島県は教育現場でのICT環境の整備が進んでおり、児童・生徒用コンピューターが4.5人に1台という全国1位の普及率(※)を誇ります。中でも鹿児島市は、小中高合わせて120校の学校を抱え、積極的にICT環境の整備に取り組まれています。 その環境整備と運用を担う鹿児島市教育委員会・学習情報センターは2013年、「WAPS-APG600H」を全小・中学校に配布し、タブレットを用いた教育環境の整備に着手しました。

出典:文部科学省「平成24年度 学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果」

概要

互いに学び合う薩摩の郷中(ごじゅう)教育

市立小・中・高 120校で教育ネットワーク環境を整備

「2020年に1人1台タブレット」の政府方針の第一歩

グループで学び合う質実剛健な郷中教育

鹿児島市教育委員会は、鹿児島市の教育事務をつかさどり、鹿児島市内の小学校78校、中学校39校、市立高校3校、市立幼稚園4園の教育を束ねています。

同教育委員会は2011年(平成23年)度から2021年(平成33年)度までに取り組むべき教育施策として、郷中教育の理念を盛り込んだ「鹿児島市教育振興基本計画」を策定しました。鹿児島市の教育ICT環境は、この計画の中で「情報教育の充実」として項目化されています。

鹿児島市の教育は戦国時代の大名・島津義弘が起こし、江戸中期の島津藩が機能と組織をまとめた「郷中教育」がベースになっています。もともとは武士の教育についてまとめられたものですが、基本は「質実剛健」。年長者と年少者を交えたグループを作り、互いに相談しながら学び合うことを重視したものだそうです。

「KEIネット」を通じてICT教育を提供

鹿児島市教育委員会は、“教育の質の向上”を目指して「教育の情報化」を図るべく、「情報教育(情報活用能力の育成)」「教科指導におけるICT活用」「校務の情報化」という3項目について計画を推進しています。

ICT環境の整備と情報教育を推進するため、学習情報センターでは2001年から「鹿児島市教育情報ネットワークシステム(KEIネット)」と呼ばれる教育用ネットワークを整備・提供しています。学習情報センターと各校のパソコンは、このKEIネットで結ばれ、各学校間の情報交換や情報発信、学習コンテンツ配信などを行っています。

鹿児島市教育情報ネットワークシステム(KEIネット)の概要図

全120校にタブレットとアクセスポイントを配布

タブレットでも使いやすいポータルサイトを作成

国は、2020年度までに小中学校の生徒一人に1台のタブレットを整備する計画を掲げています。鹿児島市教育委員会でもこの方針を踏まえ、2013年度から新たにタブレットを導入する計画を進めてきました。

もともと鹿児島市の各校では、2009年(平成21年)に提唱され、推進されたスクール・ニューディール政策において、デジタルテレビやパソコン、無線LAN環境などを整備してきましたが、今回新たにタブレットを使った新しい授業スタイルを実現するため、パソコン用とは別にタブレット専用のアクセスポイントを導入し、電子黒板やKEIネットと連携させることになりました。

「ただタブレットを配布するだけでは、授業に活用することは困難です。私たちは、電子黒板と連携することによって、“このような授業ができる”“このように使ってほしい”というイメージをきちんと作って各校に提供しました。」(山下氏) 

販売店の協力の下、2013年5月ごろから検証を開始し、2013年秋ごろから順次導入を進め、初期の導入分として、全120校に教員用・生徒用のタブレットを各5~10台、アクセスポイント「WAPS-APG600H」を各1台配布しました。

導入

タブレットと電子黒板を無線LANで連携

KEIネットで教育用コンテンツを配信・共有

使い方を自分で工夫する学校・教員も

導入商品

安価で安定した無線LAN環境を構築できる 法人様向けアクセスポイント

無線LANを通じてタブレットと電子黒板を連携

学習情報センターでは、タブレットとアクセスポイント、電子黒板を各校に配布しましたが、まだ計画の初期段階ということもあり、運用自体は各校に任せています。設定は済ませてあるので、電源を入れてネットワークケーブルを接続すれば、簡単に使うことができます。
「タブレットの利点は、場所にとらわれずに学べるというところにあります。そのため私たちは、決められたコンピューター室だけではなく、普通教室で活用してほしいと考えています。そのためには、無線LANが非常に重要になっています。実際に授業のたびにタブレットやアクセスポイント、電子黒板を各教室間で移動させている学校もあります。」(木田氏)

生徒用と先生用のタブレットは、電子黒板と無線LANによってつながっています。生徒は授業に合わせてグループに配布したタブレットを用いて学習し内容をタブレットに入力したりします。先生はタブレットで生徒用タブレットの画面を確認することができ、任意の画面を電子黒板に表示することも可能です。

「生徒用タブレットを統合的に管理する必要があるため、先生用タブレットはスペックのよいものを選択しています。」(木田氏)
企業用途では気づきにくい、文教ならではのポイントと言えるでしょう。

授業用のコンテンツはKEIネットで配信

各校のタブレット授業を支えるICT支援員の皆さん

ICT教材は、学習情報センターが提供するもののほか、各校の教員が作成したものをKEIネットサーバーにアップロードすることで、他校でも共有できるようにしています。KEIネットのポータルサイトもタブレットの導入にあわせて、タブレットでもタップしやすいボタンデザインを採用し、インタフェースなどの使い勝手を工夫しています。

「タブレットの活用方法について、各校の代表の先生に研修を受けていただいたほか、ICT支援員が学校に赴いて研修をしたり、冬期講習を開いたりして、学んでいただきました。市内に3,000人以上の教員がいますので、研修は非常に重要です。」(木田氏)

学習情報センターでは、授業での使い方や一定の教材は提供しているものの、タブレットの実際の活用は各学校の創意工夫に任せてています。学校によって温度差はありますが、徐々に授業でのタブレット活用例が増え、積極的な先生は校内だよりのような配布プリントを活用して、使い方を考案したり、それを広めたりしてくれているそうです。こうした互いに学び合うという環境も、「郷中教育」の理念によるものなのでしょう。

運用・課題

実績が安心できるバッファローのアクセスポイント

文教ならではの課題

計画はまだ初期段階、柔軟に計画を推進

実績あるバッファロー商品で安心

実は、バッファローのアクセスポイントは、前述したスクール・ニューディール政策の際に各校に導入されています。導入以来、大きな故障はまったく発生しておらず、非常に安定的に稼働しています。
「新しいアクセスポイントも、同様に長期間安定して稼働することが期待できますし、安心して利用できます。商品も安価ですし、運用コストも最小限で済んでいますので、非常にコストパフォーマンスに優れた商品だと実感しています。」(山下氏)

グループに1台では足りない

タブレットを生徒全員に配布するには課題も多い

「各校に尋ねると、タブレットを増やして欲しいという要望をよく聞きます。まだ計画がスタートしたばかりですし、学校間の温度差もありますが、積極的に使ってもらえているようです。」(木田氏)

また文教ならではの課題も見えてきました。例えば、授業コンテンツを先生が各タブレットに一斉配信したり、体育で跳び箱の飛び方を学ぶときに大容量の動画を閲覧したりなど、ビジネス用途では考えにくい使用状況が発生することがあるのです。

「生徒全員にタブレットを配布したとしたら、1クラス40名が一斉に授業の動画を観ることになるかもしれません。そうなると、1台のアクセスポイントではまかないきれませんし、複数台設置したら干渉の問題も発生します。これをどう解決すべきかが、現在の課題です。」(木田氏)

時代や技術の移り変わりへ柔軟に対応したい

こうした課題に対して、学習情報センターでは柔軟に計画を進めていきたいとしている。

「基本的な方針は持っていますが、教育環境やICT技術はめまぐるしく変化するものです。今は急速に普及しているタブレットですが、近い将来、別のデバイスなどが登場して状況が変化するかもしれません。そのときに融通が利かないようでは、計画の推進に支障がでてしまうでしょう。」(山下氏)
まず目指したいのは、各校のタブレットの台数を増やし、学級の生徒全員がタブレットを持てるようにすることだという。そしてそのことが、よりわかりやすい授業をつくり出していくことにどのようにつながるのか、検証していくそうだ。

「課題としたアクセスポイントの問題もありますから、急に進めることはできませんが、無線LANの技術や商品の発展による解決にも期待しています。状況に合わせて柔軟に対応していきたいですね。」(木田氏)

導入現場

文武両道の鹿児島商業高等学校

16台のアクセスポイントを導入

電子黒板とタブレットを連携した授業

産業界とスポーツ界に強い文武両道の商業高校

鹿児島商業高等学校と桜島を一望できる景観

市立鹿児島商業高等学校は、西日本の公立校で唯一の男子校であり、商業科、情報処理科、国際経済科の3学科を有し、将来の産業界や企業を担う人材を育てる商業高校です。

同校は、2014年1月に開催された全日本バレーボール高等学校選手権大会において準優勝を獲得したほか、ソフトテニスや卓球、バスケットボール、剣道などで全国クラスのチームや個人選手を有し、多くのプロスポーツ選手も生んでいます。まさに、文武両道の商業高校です。

校舎は鹿児島市内の小高い丘の上にあり、雄大な桜島が一望できます。

16台のアクセスポイントを導入し、電子黒板と連携

実習室の様子と電子黒板に設置されたアクセスポイント

今回のタブレットおよび無線LANの整備において、本校には特別に16台のアクセスポイントが導入されました。今回は、実習室に設置された電子黒板とアクセスポイントを見せていただきました。市場同士を連携するIT環境を模した実習室では、実務さながらの授業が行われているそうです。

教室の前方に設置されたプロジェクター型の電子黒板には、アクセスポイントが固定されていました。ここでも、山下氏・木田氏が解説してくれたように、タブレットを用いた新しい授業が行われているとのことです。


取材後記

鹿児島市教育委員会の計画は、まだスタートしたばかりですが、安定的でコストパフォーマンスの高いバッファロー商品には満足いただけているようです。ただし、山下氏・木田氏が述べるように、今後のIT技術やICT教育がどのような方向に進むかはわかりません。タブレットすら時代遅れになるかもしれないのです。柔軟に対応していきたいという姿勢が印象的でした。


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