『新宿版教室のICT化』の進化発展を目指し、区立小・中・特別支援学校全40校にWi-FiタブレットPCを導入。41台のWi-Fi同時接続を実現し、ICTを活用した授業が特別なものではなく「日常」のものに。

新宿区教育委員会 様

新宿区教育委員会事務局 教育支援課 教育活動支援係 倉坪耕作氏(左、以下倉坪氏)、新宿区 総合政策部情報システム課 安田雅義氏(右、以下安田氏)。

東京都新宿区にある新宿区教育委員会は、統括する区立の小・中・特別支援学校全40校のさらなるICT環境の充実を図るため、教育用の無線LANネットワークを強化し、最新のICT機器への更新を実施しました。この刷新により、教員用/児童・生徒用のタブレットPC、電子黒板機能付きプロジェクター、最新の実物投影機が導入され、すべての教室で1人1台のタブレットPCを使った授業が可能となりました。無線LANネットワーク環境の整備にあたっては、無線LANアクセスポイント「WAPM-1750D」を全校に合計932台設置。それに加え、無線LANシステム集中管理ソフトウェア「WLS-ADT」を導入し、データセンターで全校の無線LANネットワークを一括管理できる環境を構築しました。

概要

早い段階から取り組まれていたICT教育への対応

すべての教室で使えるタブレットPCの導入で『”学び”を広げる』

新宿区の小・中・特別支援学校全40校でICT教育を推進

教育支援課が置かれる「新宿コズミックセンター」

教育支援課が置かれる「新宿コズミックセンター」

新宿区教育委員会は、小・中・特別支援学校全40校、児童・生徒数約11,500人(2017年度現在)を抱える教育統括機関です。ICT教育には早い段階から注目し、2009年度から2011年度にかけて、校内LANの設置も含めたICT環境の整備を行っています。この整備には大きく3つの柱が立てられており、「校務用ネットワークの構築」、「教育用ネットワークの構築」に加え、『新宿版教室のICT化』と呼ばれるものがありました。
「すべての教室に、プロジェクター、実物投影機、スクリーン兼用のホワイトボード、(教員用の)ノートPC、IT教卓、無線LANアクセスポイントという設備が整っている、というのがそのコンセプトでした」(倉坪氏)

整備開始から8年目を迎え、当時購入した機器が老朽化し、保守や管理の難しさが課題になっていたことから、教育委員会主導による教育用ネットワークのリプレースと機器の更新が計画されました。

コンセプトは『”学び”を広げる』。そのために見直されたWi-Fi環境

このプロジェクトのコンセプトは、教員と、児童・生徒の双方がICT活用によって『”学び”を広げる』こと。具体的には、普通教室、特別教室、パソコン教室、体育館、職員室など、すべての教室にWi-Fiネットワークを構築し、教員と児童・生徒が1人1台のタブレットPCを活用できることが必須条件とされました。その条件を満たすべく、最大で41台以上のタブレットPCを同時使用できる無線LANアクセスポイントの導入が求められることとなったのです。

2009年度から2011年度に行われたICT環境の整備によって、新宿区の小・中・特別支援学校のすべての教室にすでに無線LANアクセスポイントは設置されていました。しかし、今回は41台のタブレットPCが安定的に同時接続でき、プロジェクターや実物投影機との無線接続も必要となったため、さらなる高性能化が求められました。また、工期も短く、導入校も40校と膨大であったこともあり、導入が容易で、多台数同時接続に対応する無線LANアクセスポイントを模索していたといいます。

新宿区教育委員会

新宿区教育委員会 様

新宿区の小・中・特別支援学校を統括する機関。今回の教育用ネットワーク環境のリプレースと機器の更新は、学校情報ネットワークを管理している「教育支援課」が主導。『”学び”を広げる』をコンセプトに多様な学習形態の創造を目指し、区立小・中・特別支援学校のICT環境の整備を推進している。

新宿区教育委員会事務局 教育支援課

所在地

〒169-0072 東京都新宿区大久保3-1-2

電話

目標・課題

2009年度から行われた『新宿版教室のICT化』

すべての教育用ノートPCをタブレットPCに更新

映像を教室内で共有できる無線LANネットワーク環境に

画期的ながら教員利用が中心だったICT化

新宿区が初めて取り組んだICT環境の整備は、2009年度から2011年度にかけて3カ年計画で行われていました。このICT環境の整備は、「スクールニューディール」と呼ばれる国家事業(※2009年度に施行された「緊急経済対策に係る学校ICT環境整備事業」)によって供出された補助金を最大限に活用したものでした。この段階で構築された『新宿版教室のICT化』は、すべての教室でプロジェクターや実物投影機、ノートPCを用いた授業が可能になる、当時としては画期的なものでした。しかしながら、パソコン教室を除き、「ICT化」は教員の利用が中心でした。

「1人1台のタブレットPC活用」の実現に向けて

倉坪氏。今回の教育用ネットワークのリプレース、さらに機器の更新を全体的に統括するメンバーの1人。前職はシステムエンジニアであり、ネットワーク構築においても豊富な知識を持つ

倉坪氏。今回の無線LANネットワーク環境のリプレース、
さらに機器の更新を全体的に統括するメンバーの1人。
前職はシステムエンジニアであり、ネットワーク構築に
おいても豊富な知識を持つ

CT環境の整備から6年が過ぎた2015年、教育委員会では、教育用ノートPCの旧式化にともない、機器・OSのメンテナンスや更新が難しくなる状況を把握。セキュリティ面も含めて保守が限界を迎える2017年を目途に、大規模な機器の入れ替えを行うことを決定しました。単に機器の入れ替えを行うのではなく、最先端のICT環境を整えることも同時に検討され、1クラスの全児童・生徒が授業で利用できる数量の児童・生徒用タブレットPCの導入も具体化しました。
「『”学び”を広げる』というコンセプトを達成するには、教育用のICT環境の刷新が必要でした。今回のプロジェクトにあたって、教育用のノートPCをすべてタブレットPCに変更する、児童・生徒にも教員用と同じタブレットPCを提供する、教室の無線LANネットワーク環境もすべて更新する、というのが一番の目的でした」(倉坪氏)。

こうしたシステム構築によって、すべての教室で、教員と児童・生徒が1人1台タブレットPCを活用できる環境づくりが目標とされました。

電子黒板機能付きプロジェクターを使った授業を視野に

さらに教育委員会が思い描いたのは、教員と児童・生徒が双方向に、リアルタイムでやり取りが行える、よりフレキシブルな『新宿版教室のICT化』体制の発展です。それは、教室に設置する実物投影機を最新型のものに、プロジェクターも、ホワイトボードに専用のペンを使って書き込みができる電子黒板機能付きの高性能タイプへと更新し、また、Wi-Fiネットワークを通じて、タブレットPCの映像を、画像転送装置を介して教室内で共有できるようにしようといったアイデアでした。

安田氏は、無線LANネットワーク環境の導入と、データセンターによる機器選定に大きな役割を果たした

安田氏は、無線LANネットワーク環境の導入と、データセンターによる機器選定に大きな役割を果たした

実際に導入された電子黒板機能付きのプロジェクター。解像度も高く、教室の後方からでも動画の内容を正確に確認できる

実際に導入された電子黒板機能付きのプロジェクター。解像度も高く、教室の後方からでも動画の内容を正確に確認できる

解決策

高負荷でも安定した接続が可能な「WAPM-1750D」

本体にある2つのLAN端子が採用の決め手に

932台もの無線LANアクセスポイントを導入する大規模導入

ネットワーク集中管理のため、「WLS-ADT」を採用

導入商品

法人様向け11ac/n/a、11n/g/b 同時使用
インテリジェントモデル無線LANアクセスポイント

無線LANシステム集中管理ソフトウェア

複数の高負荷テストを乗り越えて選ばれた「WAPM-1750D」

こうして、プロジェクトは、統括する40校の機器更新と無線LANネットワークのリプレースという大規模なものとなりました。委員会側でも、学校での無線LANネットワーク構築にはトラブルが多いとの情報があったため、機器の選定には時間をかけています。その間には、各社の無線LANアクセスポイントを教室に持ち込む形でテストも行われ、実際にタブレットPCを41台、同時接続した際の安定性も検証されました。
「無線LANネットワークは整備したけれど、実際に授業で使ってみたらつながらない、という話はよく聞いていました。区としては、これだけ大規模にやるなら、無線LAN構築での失敗は回避しなければいけない。そのため、無線LANアクセスポイントの各メーカーにご協力いただいて、2年かけてきっちりとテスト・検証を行いました。今回はタブレットPCの同時接続数を最大41台と仮定して、その負荷の中でトラブルや転送の遅延を回避できることを機器選定の必須事項にしました」(安田氏)

教育委員会はこれを採用の第一条件として選定を進め、最終的に条件を満たした機器のひとつである「WAPM-1750D」が選ばれました。

「WAPM-1750D」の設置場所は、教室の前方入口側。以前の無線LANアクセスポイントは廊下側に設置されていたが、今回は教室内部に引き込んでいる

「WAPM-1750D」の設置場所は、教室の前方入口側。以前の無線LANアクセスポイントは廊下側に設置されていたが、今回は教室内部に引き込んでいる

機器本体に2つのLAN端子を搭載している点が、コストの削減と工期短縮に貢献

ホワイトボード下部。右が画像転送装置。「WAPM-1750D」を経由してLANケーブルを接続。これにより、配線も簡略化することができた

「WAPM-1750D」が選ばれた理由としては、45台以上のタブレットPCを同時につないでも遅延の起きづらい「公平通信制御機能」が大きかったといいます。特に、動画再生時やペンでの書き込み時、プロジェクターへの画像転送も含めてタイムラグがなく安定していたことが評価されました。さらに決め手となったのが、「WAPM-1750D」本体に、有線LAN端子が2つ搭載されていたことだと、安田氏は語ります。

「今回、タブレットPCの画像や動画を素早く転送できる画像転送装置を導入しています。ただ、この画像転送装置を使うには、有線LANでネットワークにつなげる必要がありました。しかしながら、各教室の有線LAN配線は無線LANアクセスポイント用の1本しかない。そうした状況の中で、2つの有線LAN端子を持つ「WAPM-1750D」で配線を分岐すれば、スイッチなどのネットワークを分配する機器を増設せずに済むことがわかったのです」(安田氏)

各教室へのスイッチ増設には、電気工事も含めて莫大なコストがかかりますが、「WAPM-1750D」を利用すれば、廊下から引き込んだLANケーブルから「WAPM-1750D」のLAN1端子、「WAPM-1750D」のLAN2端子から画像転送装置とつなぐことが可能でした。こうした接続が他社商品ではできず、採用の強い後押しとなりました。

40校を3回に分けて施工。夏休み中に36校分を集中工事

導入工事は、全40校を大きく3回に分けて実施が進められました。第1弾は2017年3月に新校舎が完成した愛日小学校。第2弾として、ICT教育の研究・実践を先行して行う教育課題研究校3校に、そして残りの36校は一斉に施工が行われ、2017年8月末にはすべての工事が完了しました。普通教室、特別教室は教室内に無線LANアクセスポイントを移設し、パソコン教室、体育館、職員室などには新たに無線LANアクセスポイントが設置されています。以前の無線LANアクセスポイントは児童・生徒によるいたずらなどを避けるために廊下に取り付けられ、アンテナのみを教室へ引き込むかたちで設置されていましたが、いたずらされたり故障したりした例はなく、今回教室内に移設されました。学校の規模により台数に差はありますが、各校16から30台、合計で932台が導入されました。932台を取り付ける大規模な工事でしたが、「WAPM-1750D」の2つのLAN端子による分岐によってスイッチの増設を不要にできたこともあり、36校の一斉施工分も夏休み期間内に作業が完了できました。

モニタリングと設定変更を一括して行える「WLS-ADT」の採用

ネットワーク管理は学校ごとではなく、データセンターでの一括管理を行っています。「WAPM-1750D」の集中管理に対応した集中管理ソフトウェア「WLS-ADT」が新たに導入され、これにより、無線LANアクセスポイントの死活監視を含めたネットワーク監視や設定変更が一括で行える環境が整備されました。以前は、どの機器に問題が発生したのか把握するのに時間がかかりましたが「WLS-ADT」の採用により、安田氏にとっても採用の一条件であった、「無線LANネットワークに不具合が生じた際の原因特定」がすぐに行える環境が整いました。

以前の機器構成と更新後の機器構成

以前の機器構成と更新後の機器構成

効果

授業で確認できた、遅延のない安定した通信環境

複数の授業支援ソフトを使用。環境は整備し、運用は各学校に任せる

日常の風景になりつつあるICTを活用した授業

2017年8月末に工事が完了したため、整備したICTを活用した授業の実践と検証はまだこれからという状況ですが、教育課題研究校では、ICTを活用した先進的な授業が開始されています。その教育課題研究校のひとつである落合第四小学校3年2組(児童数30人)で、ICT環境を最大限に活用した社会科の授業を取材させていただきました。

3年2組の授業風景。タブレットPC、電子黒板機能付きプロジェクターといった最先端のデジタル機器と紙で作られた資料が、内容や状況に応じて使い分けられていた

3年2組の授業風景。タブレットPC、電子黒板機能付きプロジェクターといった最先端のデジタル機器と紙で作られた資料が、内容や状況に応じて使い分けられていた

授業のテーマは、「印刷工場で働く人は、良い商品を作るためにどのような工夫をしているのか」。タブレットPCは教員、児童に1台ずつ用意されています。教員がタブレットPCを使って動画再生したデータは、Wi-Fiを通じてホワイトボードに投影され、児童たちが質問への答えをタブレットPCに書き込む時間には、他の児童たちの答えや教員からのリアクションが、ホワイトボードとタブレットPC本体に表示される仕組みとなっています。授業が進む中、30人が一斉に相互通信を行っているにも関わらず遅延は発生していませんでした。もはやデジタルネイティブ世代とも言える児童たちの操作も手慣れており、ICTを活用した授業が特別なものではなく、「日常」の授業としてとらえられていることが伝わってきました。

画像転送装置の利用によって、授業で教員がホワイトボードやタブレットPCで書き込んだ内容が、児童・生徒側のタブレットPCにリアルタイムで反映

画像転送装置の利用によって、授業で教員がホワイトボードやタブレットPCで書き込んだ内容が、児童・生徒側のタブレットPCにリアルタイムで反映

自由な使い方を実現する、最新型の機器と無線LANネットワーク環境

今回、新たに導入されたタブレットPCはSurface Pro 4。ペン入力だけでなく、キーボードを使った入力にも対応できる機器となっています。また、「SKYMENU Class」のほかに、ベネッセのタブレット学習プラットフォーム「ミライシード」など複数のソフトが事前にインストールされており、自由に授業に活用できる構築がなされていました。また、新たに導入された機器との連動という面では、電子黒板機能付きプロジェクターが導入されたことで、タブレットPCだけでなく、ホワイトボードにタッチして操作できるようになっているのも大きな特徴と言えるでしょう。

Surface Pro 4。ディスプレイ右のメニューバーは、「SKYMENU Class」のもの。動画の撮影や追っかけ再生など、小学生低学年でも直感的に操作できるインターフェイスになっている

Surface Pro 4。ディスプレイ右のメニューバーは、「SKYMENU Class」のもの。動画の撮影や追っかけ再生など、小学生低学年でも直感的に操作できるインターフェイスになっている

電子黒板機能付きプロジェクターの本体。ホワイトボードの上部に設置されている

教育委員会としては、今回導入した無線LANネットワーク環境や機器をより一層活用してくれることを各学校に期待していると言います。
「教育委員会では、全ての区立小・中・特別支援学校へ、ICTを活用した授業に最適な無線LAN環境と機器を提供し、教員の創意工夫を取り入れて活用してもらいたいと思っています。区の調査では、以前の設備でも、95%以上の教員が1日1回以上、ICTを授業に取り入れていました。新しい環境では、児童・生徒がタブレットPCをどのように活用するかが重要になってくると思いますし、それが学校ごとの特色になると思います」(倉坪氏)

41台以上のタブレットPCの無線接続、動画同時再生にも対応するネットワーク環境と、それを最大限に利用できる最新型機器の導入を実現し、今後は体育の授業の際に見本を見せるなど、「動画」をうまく使った授業の増加にも期待を寄せます。『”学び”を広げる』というコンセプトのもと、より進化した『新宿版教室のICT化』は、学校への無線LAN導入におけるモデルケースになるかもしれません。


取材後記

教育委員会主導の大規模な機器更新、無線LANネットワークのリプレースでしたが、目標が明確で、しかも時間をかけて機器の選定を行ったことで、導入後はスムーズな運用が可能になっていると感じました。また、授業支援ソフトを複数採用し、その使い方や運用法を強制せず自由度を高くしているところが、今回の鍵だと感じました。新たなICTを活用した授業の可能性は、教員や児童・生徒側から生まれるような時代になるかもしれません。


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