熊本地震を教訓に。公衆無線LANサービス「くまもとフリーWi-Fi」を拡充し、指定避難所の一部施設でも利用可能に。市役所から一元管理された「防災Wi-Fi」を実現

熊本県熊本市様

熊本市 総務局 行政管理部 情報政策課 情報管理班 主幹兼主査の上田憲幸氏(写真左)
熊本市 総務局 行政管理部 情報政策課 技術主幹の花田豊巳氏(写真右)

 熊本地震で大きな被害を受けた熊本市。熊本城の復興が進む中、情報インフラの強化も図られました。熊本県が推進する公衆無線LANサービス「くまもとフリーWi-Fi」。その対象施設に、市の指定避難所の一部施設が新たに追加されたのです。その内23施設に採用されたのが、FREESPOT導入キット「FS-M1266」やトライバンド無線LANアクセスポイント「WAPM-2133TR」をはじめとするバッファローの無線LAN製品群。災害時には認証なしで利用可能となる熊本市独自の仕様も盛り込み、各施設に導入された機器を市役所から一元管理できるメンテナンス性に優れた「防災Wi-Fi」が実現しました。

概要

街、熊本城、市民の心に大きな傷跡を残した熊本地震

市内の指定避難所に公衆無線LAN環境を追加拡充

震度7の揺れが28時間で2度襲った熊本地震

 人口約74万人の政令指定都市・熊本市。自然豊かなこの街では、水道水源のすべてが天然地下水でまかなわれています。市の中心部には加藤清正が築いた熊本城があり、上に行くほど反り返った石垣「武者返し」や、豪華絢爛な本丸御殿などがシンボルとして親しまれています。
 そんな同市を2016年4月、熊本地震が襲いました。震度7級の大きな揺れが複数回発生し、多くの建物やライフラインが被災。熊本城でも石垣や天守閣などが倒壊するなど広範囲に被害を受けました。現在、少しずつ修復が進む熊本城は「復興のシンボル」として市民の心の支えとなっています。

災害時の通信手段「くまもとフリーWi-Fi」を拡充

 この震災を機に、県内の主な交通拠点や公共施設でWi-Fiが無料で利用できる「くまもとフリーWi-Fi」が強化拡充されました。同サービスは認証方式の1つに「FREESPOT方式」を採用し、共通化されたネットワーク名称(SSID)で一度ユーザー認証すれば、どの施設でもそのまま利用できるのが特長。緊急時における市民の通信手段となります。
 今回、普段から利用者が多く、指定避難所としている公民館などの施設への導入を実施。本件では熊本市の独自仕様として、災害時にはパスワード入力などの認証なしで使える「緊急時モード」も組み込まれました。その内23施設への公衆無線LAN環境の構築に、バッファローのFREESPOT導入キットや無線LANアクセスポイントといった無線LAN製品群が採用されました。

熊本県熊本市

人口約74万人、日本最南端の政令指定都市。「森の都」「水の都」と呼ばれ、自然と共存した街づくりが進められています。阿蘇一帯に降り注いだ雨は地下に浸透し、約20年かけて平野部に。この豊かな地下水でなんと上下水道の100%がまかなわれています。加藤清正が建造した熊本城が町のシンボル。熊本地震で天守閣や城壁が崩れる大被害を受けるも、わずかに残った石が櫓を支えた「奇跡の一本石垣」をはじめ、少しずつ復興される様子が「復興のシンボル」として市民の心の支えとなっています。2019年秋冬にはラグビーW杯や女子ハンドボール世界選手権大会が開催されるなど、活気が戻ってきています。

市役所所在地

〒860-8601

熊本市中央区手取本町1番1号

電話

096-328-2057(情報政策課)

目標・課題

震災直後、避難所に生じた格差と市民からの改善要望

トラブルをいち早く把握できる仕組みが必要に

市民の改善要望をきっかけにWi-Fi導入施設を拡充へ

 熊本地震では、一部の避難所で通信の不安定さが課題となりました。避難所に仮設したWi-Fiも安定的な通信を行えず、その後市民からの改善要望をきっかけに今回の公衆無線LAN拡充計画が立ち上がります。

機器が故障しても即座に状況を把握できなかった

 限られた予算内で、設備を導入しなければなりません。各施設は規模・用途が異なるため、必要に応じてWi-Fiの電波範囲・強度を拡張できることが求められます。さまざまな要件を定義する中、特に重視したのがメンテナンス性です。「従来、各施設で機器が故障してもすぐに状況を把握できず、どうしても対応が遅れがちでした。そのため、各施設の機器単位で稼働状況を遠隔から一元管理し、トラブルをいち早く把握できる仕組みが必要だろうと考えました。」と熊本市 総務局 行政管理部 情報政策課情報管理班主幹兼主査の上田憲幸氏と技術主幹の花田豊巳氏は語ります。

解決策

手軽に公衆無線LANを構築できるFREESPOT導入キット

各施設の機器を遠隔管理できるメンテナンス性を実現

導入商品

11ac/n/a & 11n/g/b
管理者機能付き
FREESPOT導入キット

11ac/n/a & 11n/g/b
DFS障害回避機能 トライバンド
法人向け無線LANアクセスポイント

11ac/n/a & 11n/g/b
防塵・防水耐環境性能
法人向け無線LANアクセスポイント

FREESPOT導入キットと無線LANアクセスポイントを連携

 要件を満たす機器としてFREESPOT導入キット「FS-M1266」をはじめとする無線LAN製品群が採用されました。「FS-M1266」は小型筐体を設置するだけで公衆無線LAN環境を手軽に実現できる製品で、各施設に1台ずつ導入されています。メール認証またはSNS連携によるユーザー登録および利用記録の機能により、悪質な利用者によるトラブルを回避できます。無線LANアクセスポイントを増設することで、公衆無線LANのカバー範囲と人数を増やせる拡張性も備えます。本件では、収容人数の多い施設には多台数同時接続対応のトライバンド無線L A N アクセスポイント「WAPM-2133TR」、体育館など高温になりやすい施設には屋外用の耐環境モデル「WAPM-1266WDPR」を増設するなど、施設の規模や環境に合わせて構成しました。上田氏によれば「各施設ごとに施設担当者と協議し、優先度の高い部屋にしっかり電波が届くようにしました。」と機器配置も工夫したそうです。

故障時のアラート通知で迅速なメンテナンスを実現

株式会社SYSKEN技術総合センタ NGN推進部の清田雅紀氏

 導入機器台数は、FREESPOT導入キット「FS-M1266」が23台、無線LANアクセスポイントの屋内モデル「WAPM-2133TR」が71台、屋外モデル「WAPM-1266WDPR」が5台、合計およそ100台に及びます。重要なのがメンテナンス性。効率的に管理するため、ネットワーク管理ソフトウェア「WLS-ADT/LW」を市役所内の管理用PCへ導入。遠隔地のWi-Fiを集中管理するもので、各施設に設置された機器から稼働状態や設定情報などを収集し、一覧表示してくれます。災害時には、パスワード不要でネット接続可能にする「緊急時モード」に遠隔から一斉切り替えできます。さらに各機器が故障するなどトラブル時には、メールでアラート通知。これまで障害発生時に即座に原因を把握するのは困難でしたが、この仕組みにより、より迅速に対応可能になったと言います。

本件の「くまもとフリーWi-Fi」導入イメージ図

効果

現場に足を運ばなくても障害を把握し、機器を更新可能に

アクセス数は4万5,000超へ、順調に増加・定着

運用管理性によりランニングコストを大幅削減

 システム整備を担当した株式会社SYSKEN技術総合センタ NGN推進部の清田雅紀氏によると「障害時に困るのは発生時刻が分からないこと。『WLS-ADT/LW』では障害発生時刻を確認できるので、その時間帯に停電・検証作業などなかったか、問題の切り分けが容易になります。」とのこと。さらに「Wi-Fi機器ではしばしばファームウェア更新が必要になることがあります。従来は設置現場に足を運び個々に作業しなければいけませんでしたが、『WLS-ADT/LW』があれば遠隔ですべての機器の更新が行えるようになり、運用管理コストはかなり削減されます。」と述べています。また、「FREESPOT方式は月額使用料が発生しないことも優位点」とし、もし24施設すべてで月額費用が発生するサービスを採用した場合、この予算に収めることは難しかっただろうとも話します。

利用数も増加、6月以降は月間アクセス数4万5,000超に

 平成31年3月末より当該施設で公衆Wi-Fiの運用を開始。すでに利用者も多く、4月以降のアクセス数は月間4万、6月からは4万5千を超えています。「日頃から利用していた施設でWi-Fiが使えて嬉しい」というリピーターの声のほか、「Wi-Fiが整備されてから施設を利用するようになった」という新規利用者の声も。学生にも好評を得ているようです。
 今後、災害が発生した場合には、遠隔から速やかに「緊急時モード」に切り替えられるため、情報の不足による混乱を軽減することができるでしょう。実際、総務省の調査報告によると「くまもとフリーWi-Fi」の利用件数が平時2千件未満のところ、4月16日の本震発生後には5,180件に急増したことが分かっています。今回、市の指定避難所の一部施設でもWi-Fiが利用可能となり、なおかつ設備のメンテナンス性が高まったことで、さらなる効果を発揮してくれるはずです。総務省では「防災等に資するWi-Fi環境の整備計画」を推進し、平成31年度までに全国3万カ所への導入を目指しています。「情報を制するものは災害を制す」と言われるように、被災者にとっては災害状況・支援物資・安否確認などにおいてインターネットが頼みの綱となります。今回の事例を通じて、全国の防災Wi-Fi整備の取り組みが加速していくのを願うばかりです。

中央公民館の外観

中央公民館の内観

FREESPOT認証ゲートウェイとして「FS-M1266」、無線LANアクセスポイントとして「WAPM-2133TR」がフロア毎に設置されている。災害時には「防災Wi-Fi」として開放され、認証なしで利用可能となる

●取材協力:株式会社SYSKEN


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