若者が住みやすい街づくりの一環として市内19か所へ公衆Wi-Fiを導入。「公衆無線LAN環境整備支援事業」を活用して災害時にも対応できる設備を展開

鹿児島県鹿屋市 様

鹿屋市 総務部 情報行政課 課長 中尾明徳氏(以下、中尾氏)、
総務部 情報行政課 井上泰二氏(以下、井上氏)

鹿児島県鹿屋市では、平成28年度に6施設(11カ所)、平成29年度に19施設(19カ所)を対象に公衆Wi-Fi導入を実施しました。平成29年度の導入には、総務省の「公衆無線LAN環境整備支援事業」を活用。バッファローのフリースポット導入キット「FS-R600DHP」と、無線LANアクセスポイント「WAPM-2133TR」「WAPM-1266R」「WAPM-1266WDPR」を採用することにより事業要件を満たし、当初予算の約1/2の価格で公衆Wi-Fi導入を実現しました。平常時は無料でインターネット接続を利用できる公衆Wi-Fiとして、災害発生時にはパスワード不要で利用できる災害時用Wi-Fiとして、市民サービスの向上に役立てています。

概要

大隅地域の政治・経済・文化の中心地

公衆Wi-Fi導入のきっかけは高校生の意見

農業・畜産業を中心に日本の食料供給基地を形成

平成3年、旧国鉄鹿屋駅の跡地に移転・建設された鹿屋市役所本庁舎

鹿屋市は、鹿児島県東部にある大隅半島のほぼ中央に位置する、人口約10万人の地方中心都市。北に高隈山、南に大隅山地、西に錦江湾を望み、広々とした笠野原台地と肝属平野が広がっています。大隅地域の政治・経済・文化の中心として発展。東九州自動車道、大隅縦貫道、国道504号などの主要道路が行き交う交通の要衝地でもあります。

年間の平均気温17℃という温暖な気候と豊かな自然を活かした農業、畜産業が盛んで、さつまいも、茶の他、ブロッコリー、大根、ピーマン、キュウリなどの野菜、カンパチ、黒牛・黒豚などの食用肉を日本全国に供給しています。また、国内唯一の国立体育系単科大学である「鹿屋体育大学」、国内最大級の面積を誇る「かのやばら園」、航空基地史資料館もある「海上自衛隊鹿屋航空基地」など、多様な地域資源・特性に恵まれています。

「”本気”で語ろう会」で出された意見が公衆Wi-Fi導入実施のきっかけに

鹿屋市では、10代以下の人口に対して20代前半の人口が少なく、成人後の人口流出の歯止めが課題となっています。平成26年に就任した中西市長は、より魅力のある街づくりを進めるため、青年団や高校生などから直接意見の聞き取りをする「”本気”で語ろう会」を開催。ここで出された意見が、公衆Wi-Fi導入のきっかけになりました。

「鹿屋市には、健康スポーツプラザ、芸術文化学習プラザなどの公共施設と食品スーパーなどの商業施設が一つになった「リナシティかのや(鹿屋市市民交流センター)」という施設があります。夏休みには学生向けのフリールームとして無料開放していたのですが、そこでWi-Fi(無線LAN)を使えるようにしてほしいという意見が出てきました。当時はちょうど光ファイバー整備計画など、ICTによる街づくりを検討していた時期だったこともあり、これをきっかけに公衆Wi-Fi導入計画が一気に進みました。急遽予算を確保し、リナシティかのや、市役所、バスの待合所など、主要6施設11箇所に公衆Wi-Fiを設置。平成28年度末から試験運用を開始しました。」(井上氏)

「”本気”で語ろう会」の様子

公共施設と商業施設が併設されている「リナシティかのや
(鹿屋市市民交流センター)」。平成28年度の公衆Wi-Fi
導入計画は、本施設を含む主要6施設を対象に実施された

鹿児島県鹿屋市

鹿児島県鹿屋市は、1941年に鹿屋町・大姶良村・花岡村の3町村の合併および市制施行により誕生。1955年に高隈村を、1958年に垂水町の根木原・桜町地域を編入。さらに、2006年に輝北町・串良町・吾平町と合併し、現在の鹿屋市となった。豊かな自然を活かした農業、畜産業、林業、漁業の他、食品加工・製造業や電気機械製造業、金型製造業など、数多くの地場企業や誘致企業が活動している。2007年にオープンした市民交流センター「リナシティかのや」を中核とした商業の発展にも力を入れながら、ひと・まち・産業が躍動する「健康・交流都市」を目指し、街づくりを進めている。

目標・課題

災害時の避難所を対象にした第2期公衆Wi-Fi導入計画

導入施設拡充に総務省の「公衆無線LAN環境整備支援事業」を活用

第1期、第2期の公衆無線LAN設置計画の内容と
その経緯について説明する井上氏

公衆Wi-Fiの導入計画を進めていた頃、総務省では「公衆無線LAN環境整備支援事業」が策定され、参加自治体の公募が始まりました。鹿屋市では、この事業を利用して、さらに19の施設に公衆Wi-Fiを設置する計画を進めました。

「最初に設置した6施設だけでは、防災Wi-Fiとしては不十分だと考えていましたので、『公衆無線LAN環境整備支援事業』は渡りに船でした。“防災拠点と災害対応の強化が必要な公的拠点を対象にする”という事業要件に従い、12箇所の指定緊急避難所(高隈地区交流センター、東地区学習センター、田崎地区学習センター、西原地区学習センター、コミュニティセンター吾平振興会館、輝北ふれあいセンター、花岡中学校、高須中学校、大姶良中学校、勤労者交流センター、武道館、平和アリーナ)、4箇所の防災計画避難所(湯遊ランドあいら、西原陸上競技場、中央公園、平和屋内練習場)、3箇所の観光案内所(吾平物産館、吾平物産展示館、輝北天球館)を対象に第2期の公衆Wi-Fi導入計画を進め、平成29年度から試験運用を開始しました。」(井上氏)

解決策

当初予算の半分の負担で避難所に防災Wi-Fiを導入

導入商品

公衆Wi-Fiサービス
フリースポット導入キット

11ac/n/a & 11n/g/b同時使用
法人様向け
無線LANアクセスポイント

11ac/n/a & 11n/g/b同時使用
法人様向け
無線LANアクセスポイント

11ac/n/a & 11n/g/b同時使用
防塵・防水耐環境性能 法人様向け
無線LANアクセスポイント

レイヤー2 Giga PoEスイッチ

ネットワーク管理ソフトウェア

バッファロー商品の組み合わせにより、指定の要件を低価格で実現

公衆Wi-Fi設置工事の業者選定については、指名業者による競争入札を実施。落札した業者は、第1期・第2期のいずれもバッファローのフリースポット導入キット(第1期『FS-600DHP』・第2期『FS-R600DHP』)を提案していました。第2期については、無線LANアクセスポイントなどすべてのネットワーク機器にバッファロー商品が採用されました。

「平成29年度に実施した入札では、総務省が指定したWi-Fiアクセスポイントの要件を満たす商品が市場に多数あったのですが、落札された業者さんの計画はこれを低価格で実現。認証ゲートウェイ機器(『FS-R600DHP』)と無線LANアクセスポイント(『WAPM-2133TR』・・大規模施設向け、『WAPM-1266R』・・中規模の施設向け、『WAPM-1266WDPR』・・屋外向けのいずれか)を組み合わせることで、固定式であること、11acに対応していること、SNSアカウント認証とメール認証の併用という要件を満たし、設計時点と比べて大幅なコストダウンを図っていました。ネットワーク管理ソフトウェア『WLS-ADT』で集中管理が行える点、災害時などにパスワードなしで利用できる緊急時モードにも対応している点も、防災Wi-Fiとして理想的でした。最終的にかかった費用は、当初想定していた2,000万円を大幅に下回る約1,058万円。費用の1/2は総務省から補助金を得られたため、実質約529万円の負担で公衆Wi-Fi拡充を実現することができました。」(井上氏)

総務省「公衆無線LAN環境整備支援事業」の対象となるWi-Fi機器の要件

Wi-Fiアクセスポイントの要件

固定式(壁面及びWi-Fiステーション等に固着)のものであること。

IEEE802.11ac(5GHz帯)に対応していること。

公衆Wi-Fiの認証基準に係る要件

公衆Wi-Fiとして平時利用を兼ねる場合、認証は(1)による認証、(2)及び(3)の認証方式併用のいずれかを採用すること。

SMS認証方式

SNSアカウントを利用した認証方式

メール認証方式

総務省(2017年12月26日公表)無線システム普及支援事業費等補助金「公衆無線LAN環境整備支援事業」申請の手引きより

防災避難所に指定されている中央公園の体育館

認証ゲートウェイ機器(FS-R600DHP)、PoEスイッチ(BS-GS2008P)、
無停電電源装置などは、管理室の機材収納ボックスに収められている。
ここから体育館の「WAPM-2133TR」までは、
通信と電源供給を兼ねた1本のLANケーブルのみで接続されている

無線LANアクセスポイントは、設置場所の広さと屋外/屋内のいずれかによって機種を選定。鹿屋市体育館には「WAPM-2133TR」が設置された。1台でバスケットボールコート2面分の広大な体育館の隅々まで電波が届き、最大384台の端末を同時に接続・通信できる。

鹿屋市公衆Wi-Fiネットワーク構成図

効果

市民に認知・利用されつつある公衆Wi-Fi

大隅地域の各自治体が展開する公衆Wi-Fiの連携を模索

追加設置の要望に応えさらなる拡充を検討

公衆Wi-Fiの利用状況と、今後のICT活用の展望について語る中尾氏

公衆Wi-Fi導入以降、リナシティかのやのフリールームでは、高校生がWi-Fiを利用する姿が見られるようになりました。利用目的の大半はモバイル回線利用料の節約であり、公衆Wi-Fiの存在が市民に少しずつ認知され、利用され始めています。

「民間でも公衆Wi-Fiを備えた施設・店舗が増えていますので、相乗効果でWi-Fi利用者は増えていくと思います。第1期・第2期の対象から漏れた施設に追加設置してほしいという意見も届くようになっていますので、今後はそういった市民の声に応えながら、公衆Wi-Fiの拡充を進めていきたいと考えています。」(中尾氏)

周辺地域との規格統一で、より便利な公衆Wi-Fiに

鹿屋市を含む大隅半島の4市5町は、互いに連携しながら
大隅地域の振興・発展に取り組んでいる。公衆Wi-Fiについても、
今後規格を統一し、シームレスに利用できる環境づくりを検討している

鹿屋市では、近隣の自治体との連携も視野に入れながら、公衆Wi-Fiのより有効な活用方法を模索しています。

「大隅半島には、鹿屋市の他、肝付町、東串良町、大崎町、錦江町、南大隅町、志布志市、垂水市、曽於市の8つの自治体があり、常に情報交換を行い、連携しながら、大隅地域の振興と発展を目指しています。公衆Wi-Fiについては、これまで各自治体が独自に事業を進めてきましたが、これを統一していく方向で現在検討を進めています。SSIDと認証方法を統一すれば、一度認証するだけでどの地域でもシームレスに公衆Wi-Fiが利用できるようになり、市民・町民にとっても、観光客にとっても大変便利になります。今後はさらに観光やPRなど、公衆Wi-Fiの新たな活用方法を模索しながら、高齢者の見守りや農業、獣害対策など、様々な分野にICTを活用し、市民サービスの向上と地域の課題解決につなげていきたいと考えています。」(中尾氏)


取材後記

防災Wi-Fiは非常用持ち出し袋と同じで、平常時は使われず、災害が起きて初めて役立つもの。そうした考えから導入が先延ばしになっている自治体も多いことと思います。鹿屋市のように平常時にも利用する前提で公衆Wi-Fiを導入すれば、費用対効果が高まり、より導入がしやすくなるのではないでしょうか。IoTの進化に伴い、Wi-Fiの用途は今後さらに拡がっていきます。防災Wi-Fi導入を検討される際には、防災以外の公衆Wi-Fiの活用方法についても併せてご検討されることをお勧めします。


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