高温多湿のハウス内に耐環境性の高い無線LANを導入し、ネットワークカメラ画像解析で生育データ収集を自動化。タブレット端末で記録業務のペーパーレス化も実現

スマートアグリカルチャー磐田様

富士通・オリックス・増田採種場が事業主体となって運営するスマートアグリカルチャー磐田(SAC iWATA)では、新たな農業のビジネスモデルを創出すべく、大規模園芸施設にてICTを駆使した作物の栽培や、新たな種苗の栽培技術開発、それらに伴う各種実証実験を進めています。そうした取り組みを加速させるため、2019年夏、温度・湿度ともに過酷な環境のハウス内に、耐環境性能モデルのバッファロー製無線LANアクセスポイントを導入。Wi-Fi接続ネットワークカメラによる生育データ自動収集が可能に。また、ハウス内でのタブレット端末の使用が可能になり、手書きメモを介さず作業記録を入力できるようになりました。

概要

富士通・オリックス・増田採種場が進める磐田市発の農業改革

画像解析で生育データを自動収集、新たな経営モデルを確立へ

種苗を起点とした新たなバリューチェーンを構築

 富士通・オリックス・増田採種場の3社が運営するSAC iWATAは、静岡県磐田市発の農業改革に取り組んでいます。東名阪にアクセスしやすく日射量も豊富なこの地で、総面積8.5haもの広大なハウス・研究施設を開設。ICTを活用してパプリカ・トマト・ケールなどを生産・出荷すると共に、人材開発・インフラ構築・生産・加工・流通・育種といった、農業において分断されていた業種をつなぎ、新たなバリューチェーンの創出を目指しています。
 また、種苗メーカーと共創し、日の目を見ずに埋もれてしまっていた品種を再発掘し、その栽培方法なども研究。ICTで仕組化し、他地域への横展開も見据えた、農業の新たなビジネスモデルの確立に挑んでいます。

詳細な生育データを収集するため無線LANを構築

 技術の中核となるのが、富士通が提供する食・農クラウド「Akisai(秋彩)」。ハウス内の温度・湿度・日射量などの環境データをセンサーで計測し、作物に最適な環境となるように、天窓・遮光カーテン・暖房などを自動制御。蓄積されたデータから最適なハウス環境を分析・研究しています。パプリカ・トマトハウスでは、日光と二酸化炭素をふんだんに取り入れ、光合成を強力に促進させるシステムも採用し、安定品質や多収生産を実現しています。
 さらに今回、バッファロー製品によって無線LAN環境を構築。ネットワークカメラを導入し、生育データを自動収集できるようにしたほか、タブレット端末も導入し、スタッフの労務管理や作業記録の効率化を実現しました。

スマートアグリカルチャー磐田

富士通・オリックス・増田採種場が事業主体となり、2016年4月に設立。日本のほぼ中心に位置し、東名阪にアクセスしやすい磐田市で「次世代型農業の拠点」を構築しています。主な事業は、(1)ICTを駆使した作物生産・出荷、(2)新たな種苗の栽培技術の確立・供給。総面積8.5haの敷地に、豊富な日射量を効率よく取り込むように建てられたハウスで、パプリカ、トマト、水耕葉物、土耕ケールを大規模栽培しています。最終的には、それらの知見・データを基に、AIによる収量予測などを実現。情報に基づく次世代経営や新たなビジネスモデルの確立を目指しています。

所在地

〒438-0801
静岡県磐田市高見丘219-1

目標・課題

手書きメモを介する記録でデータが不正確になることも

無線LAN機器を導入するには高温多湿で過酷な環境

画像解析による育成データ収集の自動化

 以前は手作業のサンプリングによって生育データを収集、労務管理や作業記録はハウス内で紙に手書きで記録し、後でPCへ打ち込むかたちで情報を集約していました。SAC iWATA AgriTECH開発室 室長の野口 雄理氏(以下、野口氏)は「1日の収穫作業の記録でA3用紙4枚の記入。記入漏れやミス、PCに入力する際にデータを省略してしまったり、後で細かい集計ができないこともありました。」と語ります。そこでネットワークカメラを使った画像解析による生育データ収集の自動化と、ハウスにタブレット端末を持ち込む作業記録のペーパーレス化を目指しました。

ハウス内設置に求められる高い耐環境性能

SAC iWATA AgriTECH開発室 室長の野口 雄理氏

 そのためハウス内にはWi-Fi機器の常設が必要となりますが、ハウス内は高温多湿。夏は40℃以上になります。さらに、作物を育成していない時期にはハウス内を病害虫が死滅する温度まで高めて殺菌する「蒸し込み」という作業を行いますが、その時ハウス内は約45℃に達します。一般的なオフィス用の機器ではこの環境に耐えられないため、耐環境性能に優れた機器を探索。複数社の無線LAN機器の情報を集め検討した結果、牛舎への設置など農業への導入実績を持つバッファロー製耐環境性能無線LANアクセスポイントの採用に至りました。

解決策

耐環境性モデル「WAPM-1266WDPR」を選定

複数の無線LAN機器をWDSでつなぎ広範囲をカバー

導入商品

11ac/n/a & 11n/g/b
DFS障害回避機能搭載
法人向け無線LANアクセスポイント

11ac/n/a & 11n/g/b
防塵・防水耐環境性能
法人向け無線LANアクセスポイント

農業への導入実績ある耐環境性能モデルを選択

 検討の結果、ハウス内に設置する無線LANアクセスポイントは、防水・防塵、動作保証温度-25~55℃、基板フッ素コーティングによる耐腐食性能を備える耐環境性能モデル「WAPM-1266WDPR」を選択しました。富士通グローバルサプライチェーン本部兼スマートアグリカルチャー事業本部 マネージャーの村上 弘幸氏(以下、村上氏)は「55℃までの高温に耐えられること、上流のネットワークへLANケーブルを使わず無線接続できる『リピーター機能(WDS)』に対応していること、性能と価格のバランスの良さ、さらにハウスと同様に高温多湿な牛舎での導入実績があったことから選定しました。」と話します。このほか、SAC iWATAでは、ICTによる栽培や実証実験を通じて得た知見を、将来的にソリューション化することを目標としており、「専用端末不要でWeb設定画面から設定変更できるバッファローの法人向け無線LANアクセスポイントなら他の農場に同じ環境をつくることも容易です。」(野口氏)と、評価します。

ハウス内の無線LAN機器をWDSで接続

富士通 グローバルサプライチェーン本部 兼スマートアグリカルチャー事業本部 マネージャーの村上 弘幸氏

 導入台数は、パプリカハウス(約1.8ha)に計4台、トマトハウス(約1.2ha)に計3台。ネット回線が通っているハウス併設の事務所に「WAPM-1266R」を1台ずつ設置し、そこからハウス内に約60m間隔で設置した「WAPM-1266WDPR」2~3台を「リピーター機能(WDS)」で接続し、奥行のあるハウス内の広範囲をカバーしています。パプリカなどは高さ約5mまで成長するため、電波が遮られないよう約6mの高さに設置しました。さらに、一緒に導入したタブレット端末を活用し、スタッフが作業日誌や勤怠を入力。現場でデジタル記録できる環境へ移行し、作業負担や記入漏れ・ミスを軽減しました。無線LANアクセスポイント間の通信は5GHz帯、ネットワークカメラやタブレット端末との通信は2.4GHz帯と使いわけ、通信速度の低下を軽減。導入検証・運用時は調整しながら柔軟な運用を実現しています。

パプリカハウスのネットワーク構成。トマトハウスもWAPM-1266WDPRの台数が2台である点以外は同様

効果

生育データ収集と環境センサーの組み合わせで収量予測

無線LANを活用した新たなソリューション確立を目指す

環境、作業内容、生育の相関関係を見える化

 2019年8月よりネットワークカメラによる定点観測を開始し、茎・葉の成長、着果状況、病虫害の有無といった生育データを画像で収集可能となりました。野口氏は「例えば、色づいた果実を数えることで来週の収量が予測できますが、画像解析で数える作業を自動化できればサンプル数を大幅に増やすことができ、予測精度の飛躍的向上が期待できます。」と、その価値を語ります。タブレット端末による作業記録のペーパーレス化では、スタッフの作業負荷が大きく軽減されました。記入漏れ・ミスが減り、あとからスタッフ総出で紙を確認しながら集計し直すこともなくなったそうです。さらに作業内容を詳細に記録することにも大きな意味があり、「これまで環境センサーによる環境データを収集していましたが、それだけでは収量予測はできません。どのような環境で、いつ、どれだけの作業をしたら、どのように生育したか。これらの相関を知ることが重要なのです。」と、野口氏は語ります。収量予測の実現に向け、より多くのデータが揃い始めたのです。また「WAPM-1266WDPR」導入後に「蒸し込み」を実施。温度は44.8℃、湿度は90%に達したそうですが、「WAPM-1266WDPR」はその後も正常に稼働。ハウス内での使用に適した耐環境性能が実証されました。

画像解析の知見をソリューション化したい

 2019年9月に、パプリカ・トマトハウスへのWi-Fi導入は完了し、まずはパプリカハウスでネットワークカメラによる生育データ収集を検証しています。今後は、ケールや水耕葉物などのハウスにも順次同様の設備を導入し、ネットワークカメラの画像解析によるデータ収集の自動化、およびタブレット端末による記録のペーパーレス化を行っていく方針です。村上氏は「農業ICTも進んでいますが、環境センサーなどほとんどがサブギガ帯(IoTセンサー向けの1GHz以下の周波数帯)無線を使っており、高速なWi-Fiを活用した事例はまだ少ないと思います。将来的には、より高解像度の画像解析も視野に入れ、通信速度を高速化していきたいですね。」と説明。野口氏も「SAC iWATAは、単に作物を育てるのではなく、ICT農業や種苗の研究を進めながら、新たな農業のビジネスモデルを開発・確立し、横展開するのが目標。今回のICT環境を活用し、画像解析による生育データ収集の定番ソリューションを創っていきたいですね。」と、今後の展望を語ってくれました。

パプリカ・トマトハウスの約6mの高さに「WAPM-1266WDPR」を設置

ハウス内でタブレット端末を活用し、作業日誌などを記録している

●取材協力: 富士通株式会社


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