無線LANでイベント会場でのフリースポット設置とロケット発射のインターネット中継に成功。
能代宇宙イベント協議会 様

写真左より、秋田大学大学院工学資源学研究科附属ものづくり創造工学センター 助教授 和田豊氏、センター長 教授 神谷修氏、センター員 前田恵介氏。
2005年から秋田県能代市で開催されている能代宇宙イベント。2010年に開かれた第6回大会では当社の“11n無線LAN”が設置され、快適なアクセス環境を実現し、インターネットによるロケット発射のライブ中継にも成功しました。
概要
2005年より高校生、大学生を対象とした能代宇宙イベントを開催。
ハイブリッドロケットの打上や缶サット甲子園を実施。
世界でもトップクラスにある日本の宇宙教育の一端を担う。
どういう経緯で始まったイベントなのですか

2005年は日本のロケットの父といわれる糸川英夫博士が初めてペンシルロケットを打上げた年からちょうど50年目にあたります。打上場所は秋田県の道川海岸だったのですが、それを記念して大学生や社会人を対象としたアマチュアの宇宙イベントをやろうということで始まった大会です。今年はその6回目にあたり、27の大学や研究室と15の高校が参加しています。
どういった内容のイベントなのでしょうか

高校生を対象にした宇宙甲子園では缶サット(小型模擬人工衛星)の製作・運用をする「缶サット甲子園」と、モデルロケットの製作・打上を行う「ロケット甲子園」を実施し、大学生は缶サットのフライバック競技やハイブリッドロケットなどの打上実験を行います。高校生の場合、本大会は毎年開催される世界的な「チームアメリカロケットチャレンジ」の日本予選も兼ねており、優勝者にはそこに参加できる資格が得られます。
探査機はやぶさの帰還もあって宇宙への関心が高まっていますね
確かにこれまでと比べるとこのイベントへの関心も高まっていますし、各企業だけでなく、地元能代市からもいろんな支援がいただけるようになっています。日本の宇宙教育は世界トップレベルにあるといわれており、このイベントがその一端を担っていることは確か。学生には、このイベントを通じてロケットや人工衛星の製作や発射に必要な電子回路の知識や、安全に飛ばすための基準やノウハウを身につけてもらいたいと思っています。
能代宇宙イベント協議会

高校生を対象とした宇宙甲子園や大学生によるハイブリッドロケット打上を行う「能代宇宙イベント」を2005年から主催。2010年8月19日~22日に第6回大会を開きました。
目標・課題
無線LANを使った野外でのアクセス環境にチャレンジ。
パソコンが快適に使えるフリースポットの実現。
発射シーンをインターネットを通じてライブ中継。
アクセス環境はどうだったのですか

会場は広大な松林の中にあり、携帯もほとんど通じないという、完全な野外です。幸い、すぐ近くまでNTT東日本さんが光ファイバーを敷設していましたので、それを使ってアクセス環境を整備できないかと考えました。パソコンが快適に使えるようにすることと、ロケットの発射シーンをインターネットを通じてライブ中継することです。ただし、会場から発射場、出場者スペースまで約500m離れており通信手段の確保が大きなテーマ。そこで2009年、通信機に加え、バッファローさんの家庭用アクセスポイントを設置してチャレンジしてみました。
実際にいかがでしたか

パソコンはなんとか使えたのですが、ライブ中継のほうは指向性のある長距離無線通信機を使ったせいか、指向性が強すぎてブツ切れの映像になってしまいました。何度も途絶してしまうのです。映像がつながらないのでおかしいなと思って見ると、通信機器の前で子どもが遊んでいた…なんてこともありました。インターネット中継の場合、いったん映像が切れるとかなり不快な思いをするわけで、とても快適な環境とはいえなかったと思います。
それで2010年はやり方を変えたのですね
やはり家庭用では限界があると思い、バッファローさんに協力してもらおうと考えました。ただ、どうしていいかわからない。つてもない。そこでホームページのIRページを通じてメールを送りました。IRなら絶対に返事をくれるだろうと思ったからです。だめもとで機器を借用できないかとお願いしたのですが、ちゃんと返事をいただいて貸していただけることになった。仙台営業所から営業の大柿さんにも来ていただいて、いろいろ相談に乗ってもらいました。
解決策
法人向け無線LANとアンテナを会場内に設置。
約500mの距離での野外での通信に挑戦。
何度かの失敗を経て遠距離での通信に成功。
導入商品
どういう内容になったのですか
バッファローさんのお話では、500mという距離であっても家庭用の機器で十分ではないかということでした。スペック的には問題はない。そこで最初は家庭用のアクセスポイントとアンテナを設置して、飛ばすというやり方にしました。ところが、試行錯誤してみるとやはり家庭用では限界がある。そこで法人向けのアクセスポイントに変えたのですが、それでもなかなかつながない状態がしばらく続きました。
原因は何だったのですか

私たち自身が法人向けに慣れていなかったことが大きかったと思います。バッファローさんには設定ファイルを送ってチェックしてもらったりといろいろな協力をいただきました。2台のアクセスポイントを同時にハブに挿してしまい、つながらないなんてこともありました。全部ループしてしまうので当たり前なんですが、そうしたことも最初はわからなかったのです。大学に持ち帰って試験したこともありますが、大学だとシステムが複雑すぎて使えない。仕方なく和田先生の自宅前でアンテナを立て、夜中に試験したこともありました。周りから見れば、かなり怪しい情景だったと思います。
そのほかに苦労されたことは

ポールを立ててその上にアンテナを付けたのですが、そのレベル合わせに苦労したことがあります。最終的に市販されている伸縮型の物干し竿を使い、特殊な冶具を作ってポールを立て、GPSで位置を測りながらレベルを合わせました。なんとか通信できるようになったのはイベントの約1週間前。試験で苦労した分、つながった瞬間のうれしさは格別でした。全員で「やったー」と大喜びしました。
効果
フリースポット、ロケット発射のインターネット中継に成功。
2011年はさらに遠距離での通信に挑戦する予定。
能代でのアジア大会、世界大会の開催をめざす。
イベントでは実際にどうでしたか
おかげでロケット発射のライブ中継に成功しました。かなりきれいな映像がインターネットを通じて配信できたと思います。フリースポットでも昨年と比べて快適な環境が実現でき、ストレスがなくなりました。他に、昨年と比べて大きく変わったことは毎朝、アンテナの調整作業が不要になったことです。昨年は指向性の調整に人も時間もかかっていたのですが、今年はスイッチをオンにするだけ。イベント期間中はやるべきことが他にたくさんありますから、これは本当に助かりました。

来年はいかがですか

今年は成功でしたから、もちろん来年も同じ方式でいきます。ただ、今年は2点間のWDS専用モードでやりましたから、来年は他のモードでも通信できるよう試したいと思っています。また、来年は1kmほど南の場所で開催するという話も浮上してきています。さらに遠距離になります。果たしてその距離で通信できるのか。速度は遅くならないかといった課題に挑戦しなければならないかもしれません。その際も、バッファローさんの協力をぜひお願いしたいと思っています。
能代宇宙イベントの今後についてお聞かせください
日本を代表する宇宙イベントと思っていますが、これを名実共に日本一の大会にして、世界に発信していきたいと思っています。アメリカではモデルロケットの打上は盛んですが、ハイブリッドロケットや缶サットは日本がリードしていますから、ここから世界に発信していくことは十分に可能です。いずれアジア大会や世界大会をここで開きたいというのが私たちの夢です。

取材後記
高校生や大学生の宇宙への夢を形にする夏のイベント。世界大会の予選でもある大会のため世界からも注目されており、インターネット中継は非常に重要でした。この広大な会場でスムーズに無線LAN接続できるかが非常に大変で、当社としてもめったに実地で行うことのできない大きなチャレンジでした。しかし、インターネット中継もうまくいき大会も成功。協力させていただいた当社としても貴重なデータをいただくことができ大変感謝しております。来年はさらに広い会場になるかもしれないとのこと。当社も協力させていただき、より大きな目標に挑戦させていただきたいと思っております。大変ありがとうございました。