外国人観光客誘致で整備してきた公衆Wi-Fiサービスを公共施設や仮設住宅、集会所へ展開。被災者の支援や復興支援に役立つ通信インフラを提供

熊本県庁 様

熊本県 企画振興部 交通政策・情報局 情報企画課 業務システム改革支援班 主幹 田川 栄一 氏(右)、熊本県 企画振興部 交通政策・情報局 情報企画課 参事 門垣 博美 氏(左)

熊本県では、2013年から認証方式の1つとして「FREESPOT」を採用した公衆Wi-Fiサービス「くまもとフリーWi-Fi」を展開しており、敷設機器のひとつとしてバッファローのフリースポット導入キット「FS-600DHP」が採用されています。外国人を含む観光客の誘致に活用されてきた「くまもとフリーWi-Fi」ですが、2016年4月の熊本地震では、震災後の応援や支援のときに非常に役に立ったといいます。今後、熊本県では、観光客誘致という視点だけでなく、災害時の通信インフラ確保のためにも公衆Wi-Fiを拡大し、安心・安全な街づくりを目指していこうとしています。

熊本県 企画振興部 交通政策・情報局 情報企画課 業務システム改革支援班 主幹 田川 栄一 氏(右)
熊本県 企画振興部 交通政策・情報局 情報企画課 参事 門垣 博美 氏(左)

概要

熊本県主導の公衆Wi-Fiサービス整備

熊本地震の発生

「FREESPOT」を採用した公衆Wi-Fiサービスを県主導で展開

「くまもとフリーWi-Fi」を利用できる施設や
スポットに貼られるロゴステッカー

熊本県では、バッファローが主宰を務める「FREESPOT協議会」が提供する公衆Wi-Fi規格「FREESPOT」を認証方式の1つとして採用した公衆Wi-Fiサービス「くまもとフリーWi-Fi」の整備を2013年から始め、県有施設から市町村の施設、民間施設に展開し、2016年7月時点で448のアクセスポイントで利用できるようにしています。県内のさまざまな施設で統一されたSSIDで公衆Wi-Fiサービスを展開することで、一度認証すれば、さまざまな施設で公衆Wi-Fiサービスを利用できるようになり、外国人をはじめとする観光客の利便性を上げることが「くまもとフリーWi-Fi」の当初の目的であり、SNSなどでの拡散効果も得られました。熊本県では敷設機器のひとつとしてFREESPOT導入キット「FS-600DHP」を採用しています。

民間の公衆Wi-Fi規格「FREESPOT」を熊本県が採用したのは、ユーザー登録や認証の仕組みが提供されていれば、インフラや認証サーバーを県が整備する必要がなく、初期費用やランニングコストを抑えて民間の施設や中小規模の公共施設などに導入しやすいことが大きな理由でした。

28時間で2度の震度7が発生

2016年4月14日21時26分、後に前震と呼ばれる震度7の地震が熊本空港近くの益城町で発生しました。余震が続いて不安な時間が過ぎていく中、約28時間後の4月16日1時25分には本震となる震度7の地震が再び発生し、熊本県や大分県に大きな被害を与えました。16万戸以上の住宅被害がある中で、これまでに2,000回以上の余震が続き、ピークで18万人以上の人が避難を与儀なくされていました。

震災で熊本城も大きな被害に遭ったが、熊本市では2019年までに天守閣を再建し、2035年までの20年間で被災前の状態に復旧させる計画を発表している

熊本県庁

九州の中央に位置する熊本県は、阿蘇山を始め、1,000メートル級の山々が連なる美しい景観に富んだ県です。
2016年4月14日に発生した熊本地震により、甚大な被害に見舞われたました。震災後、熊本県では復興に向け「熊本地震からの復旧・復興プラン」を策定、被災者の生活再建や被災地の創造的復興を図るため、さまざまな施策を行っています。県では防災の観点から、災害に負けない基盤づくりを進めており、その一部として、公衆Wi-Fiサービスも災害時の重要な通信手段として、積極的に整備を目指しています。

所在地

熊本県熊本市中央区水前寺6丁目18番1号

電話

096-383-1111(代表)

震災時の通信手段

災害時の公衆Wi-Fiサービスの重要性

平時でも災害時でも変わりなく利用できた「くまもとフリーWi-Fi」

震災後に公衆Wi-Fiサービスが非常に重要であることを再認識

震災後、「くまもとフリーWi-Fi」は、電気、基幹回線の復旧とともに通常通りのサービス運用を再開していました。

「公衆Wi-Fiサービスが非常に重要なものであることを再認識しました」と話す熊本県 企画振興部 交通政策・情報局 情報企画課 業務システム改革支援班 主幹の田川 栄一 氏は、震災当日の夜には「くまもとフリーWi-Fi」がどの施設で利用可能かという情報がテレビなどで県内外に報じられたと説明します。
 熊本県 企画振興部 交通政策・情報局 情報企画課 参事 門垣 博美 氏も「避難された被災者の方から、『くまもとフリーWi-Fi』へのつなぎ方の問い合わせが来たことがありました」と話してくれました。

現在では、被災者自身が避難所などで情報を得るためにも公衆Wi-Fiは必要だと考えていますが、被災前の公衆Wi-Fiサービス展開計画では避難所となる施設はあまり多く含まれていなかったと田川 氏は説明します。また、前震の際に大規模な避難所として指定されていた益城町の大規模イベントホール「グランメッセ熊本」にも「くまもとフリーWi-Fi」が敷設されていましたが、本震が発生したときにガラスが割れるなどの被害が起きて立ち入り禁止となり、避難所として利用されることはありませんでした。しかし、「公衆Wi-Fiサービスは被災者が利用するだけでなく、市役所や町村役場などに駆けつけた災害ボランティアスタッフへ提供できる通信インフラとなり、それが被災者支援のための情報収集手段として役に立っていました」と田川 氏は説明します。

さらに、「震災時は、電話などがつながりにくく、SNSやLINEなどが活躍していました。その際に公衆Wi-Fiサービスを利用できることは非常に助かりました。『くまもとフリーWi-Fi』は、平時でも災害時でも変わりなく利用できたことが評価できると思います」と門垣 氏は話しています。

導入商品

小中規模の施設で導入と運用がしやすいFS-600DHP

フリースポット導入キット「FS-600DHP」に対して、田川 氏は次のように評価しています。「『FS-600DHP』は、ある程度知識があれば個人でも敷設可能で、小中規模の施設などでの導入事例が多いようです」。

今後の公衆Wi-Fiの整備について門垣 氏は、次のように話します。「災害時には、情報を早く入手することと、近しい人と連絡を取り合うことが求められます。通信手段が使える環境があることは、今後の安心感につながっていきます。安心・安全な熊本を作るためにも、公衆Wi-Fiの整備は行っていく必要があると思います。今回の震災では、余震が多く、車中泊などで家に帰れない人が大勢いたので、今後も公衆Wi-Fiサービスを人が集まるような場所で使えるようにしていきたいですね」。

田川 氏は「くまもとフリーWi-Fi」は、災害時に役立つ公衆Wi-Fiサービスとなるのではないか、と話します。「災害が発生して、慌てて災害時専用の公衆Wi-Fiサービスにつなごうと思っても、例えば高齢者だけで接続設定を行うには難しいかと想像できます。しかし、県下の施設で統一したSSIDの『くまもとフリーWi-Fi』なら平時のときに誰かのサポートを受けながらでも登録してあれば、災害が発生してもすぐに公衆Wi-Fiサービスを使うことができるはずです。県民全員が一度は登録するように広めていきたいですね」。

震災後

今後は防災面でも公衆Wi-Fiサービスを活用

地域の通信インフラとして県民全員に広げたい

観光客誘致と防災の両面で公衆Wi-Fiを整備

「これまでは、外国人観光客にスポットを当てて整備してきたが、今後は防災にもスポットを当てて整備していく必要があると考えています。災害対応がひと段落して元に戻りつつある中で、観光のために公衆Wi-Fiサービスは重要な役割を果たすことは間違いありません。しかし、今後は被災者に仮設住宅を提供していくことになるが、一時的な住まいで新たにインターネット回線を契約することは被災者の新たな負担となることから、被害が大きい仮設団地(みんなの家)の一部には「くまもとフリーWi-Fi」を整備していきたいと考えています」と田川 氏は話します。

観光客も戻ってきつつある熊本県

田川 氏は、震災で多くの被害を出し、観光にも大きな打撃を受けた熊本県ですが、3ヶ月が経って人が戻って来ていることを実感しているといいます。「震災後は、どの観光スポットに行っても人が少なく、これまでは休日に人が多くて入れないような人気の観光施設でもすぐに入れるような状態でした。しかし、7月に入ってきてからは、高速道路も混んできており来訪者が増えてきたように感じています」。

2016年8月現在、交通機関や旅行会社、政府などは九州観光を支援する「九州ふっこう割」キャンペーンを展開。最大で70%割引の宿泊券などを発売しています。また、2016年7月から販売開始となった、九州の高速道路が定額で乗り放題となる割引プラン「九州観光周遊ドライブパス」などの効果も出てきているようです。八代港の大型クルーズ船も7月に再開されているほか、城彩苑の事例にもあるように、今の熊本城を見るための観光ツアーも企画され、観光客が次第に熊本に戻って来ているのです。

7月には八代港に中国からの大型クルーズ船が寄港し、1日に60台もの観光バスで城彩苑にも観光客が戻り、活気を取り戻しています

熊本県では、これまでも「くまもとフリーWi-Fi」の助成事業を行い、民間施設などへの展開を進めてきましたが、今後も助成事業を実施し、民間企業や交通拠点への展開を推し進めていきます。同時に、災害時のインフラ確保の観点も加え、外国人を含めた観光客誘致と防災対策の両輪で「くまもとフリーWi-Fi」の整備に取り組んでいきます。


取材後記

東日本大震災では、SNSやインターネットを使った情報提供などが大きく注目される一方で、無償で利用できる公衆Wi-Fiの整備が大きな課題となっていました。そこから生まれた災害時用Wi-Fiスポット「00000JAPAN」は熊本地震で大きな役割を果たしましたが、前震発生の2週間後の4月28日からは一部の避難所を除いて順次サービスが終了しています。熊本県が整備してきた「くまもとフリーWi-Fi」は、現在も支援や応援に駆けつけた人の通信手段として貢献し、今後の仮設住宅での通信手段や観光客の呼び戻しにも活躍が期待されており、行政が公衆Wi-Fiサービスを低コストで展開するモデルケースとして注目を集めています。


その他の導入事例