「離岸流」の自動検出を目指すIoTサービスの実証実験を実施。屋外設置できる無線LANアクセスポイントを活用し映像データを安定して送れる通信環境を実現

千葉県御宿町様

御宿町 産業観光課 商工観光班 班長 永島哲氏(写真右)
御宿町 産業観光課 商工観光班 係長 林昌広氏(写真左)

 千葉県御宿町では、コニカミノルタジャパンを代表とする産学連携のコンソーシアム組織の一員として、「離岸流立入検知による水難事故防止と安心・安全な海洋レジャーの町の実現」を目指すIoTサービスの実証実験を実施。MOBOTIX社製ネットワークカメラで撮影した海岸の定点画像をサーバーに送信してAIが画像解析による離岸流の発生と、そこへの人の立入りを検知し、海岸のサイネージとライフセーバーのウェアラブル端末へのリアルタイム通知する仕組みを実現しました。MOBOTIX社製ネットワークカメラとサーバーをつなぐ通信機器として、バッファローの無線LANアクセスポイントが活用されています。

概要

海水浴やサーフィンエリアとしても人気を博している御宿町

御宿町で「離岸流」の自動検出を目指すIoTサービスの実証実験を実施

ライフセービングとかかわりの深い御宿町

 房総半島の東に位置する千葉県御宿町は、人口約7,000人の風光明媚な町です。海岸には約2kmの美しい砂浜が広がっており、海水浴やサーフィンエリアとして人気を博しています。
 また御宿町は、ライフセービングとのつながりが強い土地としても知られています。その歴史的背景には、1609年にメキシコの乗船「サン・フランシスコ号」が嵐で座礁した際、当時の村民が総出で救助にあたり、乗組員373人のうち317人の命を救ったという史実があります。2015年12月には、御宿町と日本ライフセービング協会(JLA)による相互協力協定が締結。1996年の「第11回 全日本ライフセービング学生選手権大会」を皮切りに、日本ライフセービング協会の公式大会開催は30回を超えました。

「離岸流」の自動検知システムを実現

海岸の水難事故で大きな問題となっている原因のひとつが「離岸流」です。これは、海岸に打ち寄せた波が沖に戻る際に発生する強い流れで、日本の海岸線における水難事故の約6割が離岸流によるものという統計もあります。こうした状況を改善するべく、コニカミノルタジャパンを代表とする産学連携のコンソーシアムが組織されました。この取り組みは「平成30年度 総務省 IoTサービス創出支援事業」の委託先に選定されており、2018年7月に御宿町で「離岸流立入検知による水難事故防止と安心・安全な海洋レジャーの町の実現」を目指すIoTサービスの実証実験を実施。同プロジェクトの屋外通信設備として採用されたのが、バッファローの耐環境性能無線LANアクセスポイントでした。

千葉県御宿町

 房総を代表する約2kmの美しい砂浜を有し、数多くの海水浴客やサーファーで賑わう千葉県御宿町。日本の三大海女地帯のひとつとしても知られており、イセエビや外房あわびなどの絶品グルメが楽しめます。メキシコ・スペインとの交流も深く、2009年9月26日に日本メキシコ交流400周年記念式典が開催された際には、当時の皇太子徳仁親王殿下(現在の第126代天皇陛下)をはじめ、駐日メキシコ・スペインの両大使などが出席されました。

役場所在地

〒299-5192

千葉県夷隅郡御宿町須賀1522

電話

0470-68-2511(代表)

目標・課題

1秒に3~4枚撮影される映像データを安定して送れる通信環境が必要に

雑木林が障害となり、直接通信では十分な通信速度が得られず

映像データを安定して送れる通信環境が必要に

 プロジェクトは、海岸の定点画像の収集と、離岸流の検知、および検知エリアへの人の立入を検知。これらの情報をリアルタイムにサイネージへの表示と、ライフセーバーのウェアラブル端末へ通知するというものです。御宿町 産業観光課 商工観光班 係長の林昌広氏(以下、林氏)は次のように語ります。「3台の屋外対応2眼ネットワークカメラ『MOBOTIX M16』を海岸の監視所付近に設置しましたが、画像解析用のGPUサーバは空調設備の不備や気密性から監視所に設置することができなかったため、少し離れたプール管理事務所に設置せざるを得えませんでした。そのため、上記2拠点間をリアルタイム画像解析が可能な転送速度に耐えうるネットワークで結ぶ必要がありました。」

障害物があり通信速度が不足

 監視所とプール管理事務所は直線で約100mの距離があり、この間を有線でつなぐのはコスト的に困難でした。そこで無線LANアクセスポイントを用いて、離れた拠点間の無線接続を試みたのです。しかし、ここでまた新たな問題が生じたといいます。林氏はこの問題について、「監視所とプール管理事務所の間には雑木林があり、ダイレクトな2拠点間通信では4Mbps程度の速度しか得られませんでした。」と語ります。

解決策

中継地点を設けることで雑木林を避け、約80Mbpsの通信速度を実現

通信性能はもちろん、海岸での利用に耐える耐環境性能が決め手に

導入商品

11ac/n/a & 11n/g/b
防塵・防水耐環境性能
法人向け無線LANアクセスポイント

遠距離・屋外通信対応
広指向性・平面型アンテナ

MOBOTIX社製ネットワークカメラ(コニカミノルタジャパン取扱商品)

知性を統合したネットワークカメラ MOBOTIX

 カメラ全機種にCPUを内蔵しており、人の『目』・『耳』・『口』を代替して簡単な判断も可能。様々なデータを取得して、アクションを起こすまでをカメラが行い、シンプルな設計でワンストップ制御を実現。そのために監視用途に留まらず、業務の省人化や効率化に活用されています。

中継地点を設けることで約80Mbpsの通信速度を実現

 画像データを安定して送るには、32Mbps以上の通信速度が求められました。そこでプロジェクトでは、法人向け無線LANアクセスポイントで多くの導入実績があるバッファローに相談。早速現地での調査が行われました。
 調査の結果、雑木林による電波の減衰を避けるためにもっとも効果的な方法だったのが、リピーター機能(WDS:Wireless Distribution System)を5GHz帯と2.4GHz帯で同時利用する接続方法でした。海岸の駐車場料金所を中継点として、海岸の監視所、プール管理事務所、駐車場料金所それぞれに屋外用無線LANアクセスポイント「WAPM-1266WDPR」を設置し、監視所から駐車場料金所までは5GHz帯で、駐車場料金所からプール管理事務所までは2.4GHz帯で無線LAN接続。これにより、約80Mbpsの通信速度を実現したのです。御宿町 産業観光課 商工観光班 班長の永島哲氏(以下、永島氏)は、「当初の目標である32Mbpsを大幅に上回ることができ、安定した画像の送信が可能になりました。」と語ります。

海岸でも安心して使える高い環境性能

 屋外用無線LANアクセスポイント「WAPM-1266WDPR」の選定理由については、十分な通信性能を持つことはもちろん、設置場所が海岸であることから「JIS-2137」で定められた「IP55規格」対応の防水/防塵性能、そして塩分を含む海風の中でも安心して使える耐腐食性能を備えている点が挙げられます。加えて、「DFS(Dynamic Frequency Selection:動的周波数選択)障害」による無線LANの停止を防ぐ「DFS障害回避機能」を備えているのもポイントです。また、監視所およびプール管理事務所の「WAPM-1266WDPR」には、 広指向性アンテナ「WLE-HG-DA/AG」が追加されています。これは標準アンテナよりも一段と安定した無線通信を実現するためです。こちらも風速60m/sまでの耐風、「IPX3規格」の防水性能、-20~60℃の動作保証温度など、屋外設置でも安心の耐環境性能を備えています。

御宿町の離岸流自動検知システムで用いられた無線LANネットワーク構成

直射日光を避けるため防護ボックスに収めて監視所の外壁に設置された「WAPM-1266WDPR」。監視所とプール管理事務所では「WLE-HG-DA/AG」を使用

離岸流の発生および人の立入りを検知した際は、監視所のサイネージへ表示すると同時に、ライフセーバーが持つ腕時計型ウェアラブル端末へ通知

効果

離岸流は約80%、人の立入りについては約90%の検知度を実現

システムに関する設備の移管などを進め、今後も引き続き活用を予定

ディープラーニングで離岸流の検知率は約80%に到達

 同プロジェクトでは、AIに対して約半年間にわたるディープラーニングを実施。離岸流の発生および人の立入りを自動で検知し、監視所に設置されたサイネージへ表示すると同時に、ライフセーバーが持つ腕時計型ウェアラブル端末へ送信するという仕組みです。検知精度については、離岸流検知率が約80%、そこへ人が立ち入ることの検知については約90%の検知率に達しているそうです。この結果について林氏は、「離岸流の発見は、これまで目視に頼る割合が大きく、ライフセーバー業務において負担のひとつとなっていました。海底の様子などから、発生頻度が比較的高い場所を割り出す研究なども行われていましたが、画像による離岸流のリアルタイムな自動検知は世界初の取り組みとなります。」と語ります。監視所に設置されたサイネージには、離岸流の発生がビジュアルで表示されるため、日本語が読めない外国人観光客の方々にも分かりやすいとのことでした。

今後もシステムの活用を通じた取り組みに意欲

 本プロジェクトは単年度事業として実施されたため、実証事業としては昨年度で終了していますが、御宿町では継続的な活用も視野に入れているそうです。林氏は「今回のプロジェクトで完成したシステムは離岸流の発生を検知する
仕組みとして、今までにない画期的なものであり、海岸における水難事故の発生率を抑える仕組みとして非常に大きな可能性を秘めていると思います。またAIの学習を継続することで、さらなる検知率の向上も期待できます。こうした点から、皆さまが安心して海水浴やサーフィンなどを楽しんでいただけるよう、御宿町としては今後も引き続き活用していきたいと考えています。『御宿町の海岸は安心して海水浴やサーフィンが楽しめる』という、地域に対するブランド力の向上にもつながってくれたら嬉しいですね。」と笑顔を見せます。また、永島氏は「離岸流による水難事故は、日本だけでなく世界的に見ても大きな問題です。このようなシステムが普及すれば、世界規模で水難事故の発生率が抑えられるでしょう。」と、システムに対する期待を語ってくれました。


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