黒部ダムの公衆Wi-Fiサービス導入を可能にしたデュアルバンド同時接続対応の無線アクセスポイント、厳しい環境下での拠点間通信を低コストで実現

黒部ダム 様

関西電力株式会社 黒四管理事務所 運輸課 車両主任 因幡透氏(以下、因幡氏)、黒四管理事務所 庶務課長 小玉善文氏(以下、小玉氏)

長野県と富山県のほぼ県境に位置し、雄大な北アルプスの山々に囲まれた黒部ダム。黒部ダムでは、年々増加の一途を辿る海外からの観光客に向け、インターネットによる情報収集やSNSの利用を楽しんでもらうため、ダム内4か所の施設に無線LANアクセスポイントを設置。2016年5月から無料で利用可能な公衆Wi-Fiサービスを開始しました。今回の事例では、2.4GHz帯を使った公衆Wi-Fiサービス提供と5GHz帯を使った屋外拠点間通信を同時に実現する無線LANアクセスポイント「WAPM-APG300N」を用い、有線LANの敷設が困難な場所においても、低コストで信頼性の高い公衆Wi-Fiサービスを構築した例をご紹介します。

取材協力

サスナカ通信工業株式会社

概要

戦後日本の復興を支えた、国内最大のアーチ式ダム

圧巻の観光放水、雄大な北アルプスの山々と見どころも沢山

観光客のインターネットアクセス、SNS活用の促進に向け、公衆Wi-Fiサービスを導入

堤高186メートルを誇る日本最大のアーチ式ダム

「戦後日本の復興を支えるためのエネルギー源を供給する」という大きな目標のもと、発電に利用する水を確保することを主目的として関西電力が社運を賭けて建設した黒部ダム。堤高186mにも及ぶ日本最大のアーチ式ダムであり、1956年から開始された建設工事は7年の歳月と当時513億円の工費、そして延べ1,000万人の手によって、1963年に完成しました。

この黒部ダムの建設にまつわるドラマは、世紀の大事業として今も語り継がれています。中でも最も困難を極めたのが大町トンネルの開通に遭遇した破砕帯との格闘で、石原裕次郎主演の映画『黒部の太陽』に描かれたことでも知られています。

毎秒10t以上の水流が吹き出でる、大迫力の観光放水

黒部ダムの観光放水。
毎秒10立方メートル以上もの水量を吹き出す様は圧巻だ

黒部ダムの見どころの1つが、毎年6月~10月に行われる「観光放水」です。堤高186mのダムから毎秒10t以上に及ぶ放水が、ものすごい勢いで水煙をあげながら行われるさまは圧巻の一言です。また、黒部ダムの周辺は名勝・中部山岳国立公園でもあることから、立山黒部アルペンルートのハイライトのひとつとしても知られており、雄大で美しい自然を楽しもうと、多くの観光客が訪れています。

「黒部ダムは国内外から年間100万人近くの観光客を迎え入れていますが、ここ数年は長野県大町市や富山県の外国人観光客受け入れに向けた積極的な取り組みもあり、台湾、香港、韓国、タイなど東南アジア圏からの外国人観光客が急増しています」と、小玉氏は話します。

バッファロー商品を採用し、無料の公衆Wi-Fiサービスを開始

今回、黒部ダムでは、さらなる海外からの観光客を迎え入れるため、富山県が運営する公衆Wi-Fi(無線LAN)サービスの「TOYAMA Free Wi-Fi」、同じく長野県大町市運営の「Omachi Free Wi-Fi」との連携のもと、黒部ダム内の4か所の施設において、誰もが無料でインターネットにアクセスし、SNS等のサービスを利用可能な公衆Wi-Fiサービスを開始しました。そこで選択されたのがバッファローのWi-Fi商品です。機器の設置が困難な厳しい環境においても、工事の負荷とコストを大幅に抑制できることが、採用の理由でした。

雄大な北アルプスの山々に囲まれた黒部ダム。

長野県大町市扇沢駅からダムまでは、電気を動力として走行する、日本で唯一のトロリーバスで向かう

黒部ダム

関西電力によって建設、1963年に完成した黒部ダムは、186mの堤高と、約2億立方メートルの総貯水容量を有する日本最大のアーチ式ダムである。大自然に囲まれた人気の観光地として知られる一方、黒部ダムの水流を用いた発電が黒部川第四発電所によって行われており、その発電量は年間約10億kWhにも及んでいる。

所在地

〒930-1406 富山県中新川郡立山町芦峅寺

電話

0261-22-0804(株式会社関電アメニックス くろよん総合予約センター)

目標・課題

年間100万人の観光客を受け入れ。近年は外国人観光客が急増

長野県大町市、富山県との連携のもと公衆Wi-Fiサービス導入を決定

厳しい自然環境の中での、設置工事の負荷の抑制が課題に

外国人観光客の伸び率は約190%、そのほとんどがスマホやタブレットを利用

「黒部ダムは2015年、約100万人の観光客を受け入れました、そのうち約18万人が外国人観光客であり、2010年には9万3,000人であったことと比べると約190%の伸びを示しています。実際、繁忙期には、まるでここが日本ではないかのように、ダム施設内では外国語が飛び交っています」と、因幡氏は話します。そうした中で、ここ数年、多々見られるようになったのが、スマホやタブレットを携えた観光客の姿でした。

「ほとんどの観光客がスマホを片手にダム内を散策し、近隣の風景や自分達をスマホのカメラで撮る様子が頻繁に見られるようになりました。そこでダム施設内にWi-Fi環境を整備すれば、スマホで撮影した写真もSNS等にすぐアップできるようになります。そうした投稿がネット経由で広がれば、さらなる外国人観光客の呼び水になるのでは、と考えていたのです」(小玉氏)

長野県大町市、富山県との連携が、Wi-Fi環境整備のきっかけに

しかし、「黒部ダムの敷地内だけで公衆Wi-Fiサービスを実施提供した場合、どこまで効果があるのかについて、十分な検討が必要でした」と、小玉氏は言います。

そこで転機となったのが、2014年、長野県大町市が観光客受け入れ策の一環として、黒部ダムのふもとにある扇沢駅に公衆Wi-Fiサービスのアクセスポイント設置を決定したことでした。因幡氏は、「大町市が市内全体に公衆Wi-Fiサービス「Omachi Free Wi-Fi」を拡張していくにあたり、扇沢駅に設置しました。関西電力でも『黒部ダムにもサービスを提供したい』という意見があり、大町市と連携をとり黒部ダムに設備を構築しました」と振り返ります。

その後、富山県からも同様の打診があり、最終的には富山県が運営する公衆Wi-Fiサービス「TOYAMA Free Wi-Fi」との接続も行われることが決定しました。

厳しい自然環境にも耐えうるWi-Fiネットワークが不可欠

レストハウスの下に位置する展望台、および山頂部分にある
新展望台の間を有線ネットワークで接続するのは困難だった。
また、冬場の厳しい自然環境下であっても
耐えうる機器が求められていた

Wi-Fi環境を整備するにあたり、小玉氏と因幡氏が相談を持ち掛けたのが、黒部ダムにおけるネットワークシステム等の構築や保守等を手掛けてきたサスナカ通信工業株式会社(以下、サスナカ通信工業)でした。

案件を担当した営業部 部長代理の半戸照久氏は、「今回の無線LANアクセスポイントの設置場所は黒部ダム駅待合場所のほか、山腹や壁面にある2か所の展望台、そしてレストハウスです。各施設の場所が離れているだけでなく高低差もあるため、それぞれの施設に設置する無線LANアクセスポイントと、基幹ネットワークの接続に有線ネットワークを用いるのは、敷設工事、およびコスト面からも困難だと判断しました」と話します。

また、冬場は積雪が多く、温度もマイナス以下となります。そうした厳しい環境下にも耐えうる機器が必要でした。これらの課題や要件を考慮しながら複数の商品を検討した結果、サスナカ通信工業が提案したのが、バッファローのWi-Fi商品です。

解決策

公衆Wi-Fiサービス提供と屋内外の拠点間通信を同時に行える 「WAPM-APG300N」を選択

公衆Wi-Fiの電波を広範囲に提供する「WLE-HG-NDC」も導入

屋外設置でも安心の耐環境性能を有した遠距離通信用アンテナ「WLE-HG-DA/AG」

導入商品

エアステーションプロ
11n/a&11n/g/b同時使用
インテリジェントモデル
無線LANアクセスポイント

2.4GHz 無線LAN
屋外遠距離通信用
コーリニア型アレーアンテナ

エアステーションプロ
5.6GHz/2.4GHz屋外遠距離通信用
平面型アンテナ

レイヤー2 Giga PoE
スマートスイッチ

レイヤー2 Giga
スマートスイッチ

Giga対応 光メディアコンバーター
マルチモード用
2芯/LC端子搭載モデル

屋外建物間通信を低コストで実現するバッファローの提案を採用

サスナカ通信工業による提案の主軸となったのが、無線LANアクセスポイント「WAPM-APG300N」です。WAPM-APG300NはIEEE802.11n/a、およびIEEE802.11n/g/bの同時使用が可能。さらに屋外利用が可能なW56帯域(5.47GHz~5.725GHz)が使用でき、離れた建物間でも電波干渉を受ける可能性が少ない5GHz帯による安定した通信が行えます。

今回、レストハウスと、新展望台および展望台間ではWAPM-APG300Nに加え、屋外遠距離通信用アンテナ「WLE-HG-DA/AG」を併用し、5GHz帯による拠点間通信を行っています。一方、各施設周辺では、2.4GHz帯によるWi-Fi通信を観光客に提供していますが、2.4GHz対応の屋外アンテナ「WLE-HG-NDC」も設置し、通信エリアの拡張を行っています。

「WAPM-APG300Nの採用により、拠点間を接続するための有線LANの敷設が不要になったことに加え、公衆Wi-Fiサービスの提供も同時に行えるため、必要な無線LANアクセスポイントの台数を減らすことができました。導入する機器が増えれば当然コストも上がりますし、障害のポイントも増えますが、そうした問題をWAPM-APG300Nが一挙に解決してくれました」と、半戸氏は説明します。

無線LANアクセスポイントの「WAPM-APG300N」と屋外遠距離通信用アンテナ「WLE-HG-DA/AG」(右)。これらの機器を活用し、距離の離れた施設間のWi-Fi接続を実現した

レストハウスの屋上に設置された「WLE-HG-DA/AG」と、2.4GHz対応の屋外アンテナ「WLE-HG-NDC」。冬季の積雪や気温の急激な低下にも十分な耐久性を備える

PoE給電対応スイッチの導入で、電源周りの工事の手間とコストを削減

また、半戸氏は、「提案にあたっては、海外製の商品も検討しましたが、求める要件に対してスペックが過剰で価格も高額でした。対して、バッファロー商品は必要十分な機能を備えながら、コストパフォーマンスに優れています。加えて、以前から当社はバッファロー商品を扱っており、ホテルなどのWi-Fi環境構築でも多くの採用実績があります。そうした中で、バッファロー商品の信頼性も十分に熟知していたことから、自信を持って提案しました」と説明します。

さらにコスト削減の一助となったのが、PoE給電対応のスイッチの採用です。今回、無線LANアクセスポイントを接続するスイッチとして、PoE給電対応の「BS-GS2008P」が2台、黒部ダム待合場所、およびレストハウスにそれぞれ設置されました。BS-GS2008Pの採用で、電源に関する工事の手間やコストも抑制できたほか、AC電源の故障等による障害の発生率も大幅に軽減されています。

PoE給電対応スイッチの「BS-GS2008P」の採用により、電源周りの工事も抑制できた

バッファローの協力のもと、綿密な事前検証を実施

今回のWi-Fiシステムの構築にあたっては、周到な事前準備が奏功しました。半戸氏は、「厳しい自然環境の中であることから、無線LANアクセスポイントの設置場所を決めていくにあたって、念には念を入れて事前調査を行いました。冬季の積雪にも埋もれないことをはじめ、障害物の有無や天候の変化など、快適な通信を実現するために様々な要件を考慮しながら、ベストな設置場所を模索していったのです」と話します。

「そうした中で、バッファローからは検証用として実機を貸し出してもらえました。実機を用いて事前に電波測定や検証を行えたことで、根拠のある形でベストな設置場所を決定することができたと考えています」(半戸氏)

ダム内4か所の施設に公衆Wi-Fiサービスが展開されている(上、左から順に駅待合広場、展望台、新展望台、レストハウス)

黒部ダム公衆Wi-Fiサービス システム構成

効果

簡単な設定でインターネット接続やSNSが楽しめるように

Wi-Fiを通じたさらなる観光客増加のための施策を推進

これからも継続して優れた商品とサポートの提供に期待

公衆Wi-Fiサービス開始以後、SNS等を楽しむ観光客の姿が数多く見受けられるように

SSID「omachi_city」または「TOYAMA Free Wi-Fi」にアクセスし、
簡単な手続きを行えば、誰でも快適な公衆Wi-Fiサービスを無料で
利用できるようになっている

2015年5月初旬から本番運用が開始された黒部ダムの公衆Wi-Fiサービスですが、「繁忙期には多くの観光客を迎え入れますが、100人以上の同時アクセスにも対応可能な設計が施されているため、快適なアクセスが実現されています」と因幡氏は話します。

小玉氏も「公衆Wi-Fiサービスの導入後は、『つながらない』『インターネットへのアクセスが遅い』といったクレームも一切ありません。実際、スマホで撮影した後、SNSにアップする操作をしているような観光客の姿が以前よりも見受けられるようになりました」と話します。

なお、公衆Wi-Fiサービスを利用する際には、「omachi_city」、あるいは「TOYAMA Free Wi-Fi」のSSIDにアクセス。表示されたブラウザー画面の指示に基づき簡単な登録を行うだけですぐに使えるようになっています。

観光情報のプッシュ配信やSNSへの投稿に特典を付与するなど、様々な施策を検討

小玉氏は、「公衆Wi-Fiサービスの開始以後、黒部ダムの風景がSNSで数多くアップされるようになっています。現在のところは、まだ日本人観光客による投稿が多数ですが、今後、外国人観光客に公衆Wi-Fiサービスの存在がさらに知られるようになれば、投稿も増え、海外への黒部ダムの認知度が広がり、ひいては観光客増がさらに期待されるところです」と話します。

「今回、公衆Wi-Fiサービスを提供するためのインフラが整備されました。これからは、このサービスを軸に様々な施策を行っていきたいと考えています。例えば、SNSに黒部ダムに関する投稿をした人に何か特典をプレゼントするようなキャンペーンなども検討しています。これらの施策を行うことで、観光客増加に弾みをつけていきたいですね」(小玉氏)

観光客にもっと喜んでもらえるような、公衆Wi-Fiサービス活用の提案を期待

(※)

今回のプロジェクトを振り返り因幡氏は、「これまで私は黒部ダムにおいて電気通信関係の業務を主に担当していたのですが、Wi-Fiについて熟知していたわけではありませんでした。対して、サスナカ通信からは優れた提案や手厚いサポートを提供してもらえ、共にベストなWi-Fi環境を構築していくことができました」と評価します。

また、小玉氏も「今回、サスナカ通信とバッファローには、満足のいくWi-Fi環境を構築してもらえました。今後は、このインフラを活用し、黒部ダムを訪れた観光客がもっと喜んでもらえるような施策を展開していきたいと考えています。そのためにも、これからもバッファローには優れた商品とサポート、そして、さらなる観光客増加につながるような提案をお願いしたいですね」と期待を寄せています。

小玉氏と因幡氏をサポートし、黒部ダムの公衆Wi-Fiサービスの実現をサポートしたサスナカ通信工業株式会社 営業部 部長代理の半戸照久氏(写真右)


取材後記

TwitterやFacebookだけでなく、画像共有SNSであるInstagramにも外国人観光客が黒部ダムで撮影した写真が多々アップされています。スマホ搭載カメラの高画質化、高機能化もあってかアマチュアが撮影したとは思えないような美しい写真も多々、見受けられました。ファイルサイズの重い画像であっても、その場からスムーズにSNSへのアップロードを可能とする公衆Wi-Fiサービスは、旅行者個人の満足度を高めるだけでなく、その画像を見た人に「この場所に行ってみたい」と思わせる重要なツールになっていることは間違いありません。


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