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EPISODE. 2

「魅力品質」の礎

〜ステレオ・パワーアンプ
「MPA-10」、
フラット・プリアンプ
「FP-11」の追加〜

かくして、1976年10月にはメルコのオーディオ製品第2弾となる50W/50Wの真空管ステレオ・パワーアンプ「MPA-10」が登場する。

そして1977年には、稲垣の紹介で相羽喜次が加わる。

相羽喜次

「私は、大学時代から就職する1982年まで参加しました。大学の先輩である稲垣さんから店番のアルバイトを頼まれたのがきっかけでしたが、メルショップが安定してくると、アンプ作りも4年ほど行いました。イコライザー・プリアンプ『EP-10』やステレオ・パワーアンプ『MPA-10』のほか、特注アンプ、オリジナルアンプも作りましたね。配線用のハーネスも作った。でも就職してからは、オーディオの世界からは足を洗いました。オーディオだけではなく、アマチュア無線など当時流行していた趣味はどれも真剣に取り組んでいましたからね」

相羽も、戸田とともに「メルコ記念館で当時の音を再生させたい」という廣美夫人の要望に応え、イコライザー・プリアンプ「EP-10」やステレオ・パワーアンプ「MPA-10」、フラット・プリアンプ「FP-11」といった機器を中古市場で買い戻してはメンテナンスに奔走した第一人者だ。

「誠さんは当時のアンプを全部処分してしまっていたので、市場で買い戻すしかありませんでした。最近はヴィンテージオーディオブームが復活したのか、高値で取引されていますし、当時のオリジナルはなかなか現存していません。オークション等で見つけては当時のオリジナルに近い形に私が復元し、戸田さんに最終調整してもらっています。回路図自体は簡単なので新規に作ることは難しくないのですが、できるかぎり当時のオリジナルに近づくようにしたいのです。たとえば、東京光音のボリュウムなんか50年も経つとガリが出ているのですが、ここにあるものはあえて交換せずそのまま使っています」

そのようにして当時の記憶を辿りながら複数の個体の修復作業をしていると、相羽は、シャーシーの取り付け穴の位置が変わっていたりするのを目の当たりにする。トランスなどのパーツが微妙に改良を重ねて作られていたのだ。

フロントパネルに「FP-11」とある個体も、リアパネルには「EP-10」とあったりする

その話を聞いていた戸田が、次のように分析する。

「個体によって微妙に違いがあるのは、仕入れできる部品で組むしかなかったという理由もあったんでしょう。でも、音のためには妥協しない、という姿勢は大切にしていました」

当時の雑誌に掲載していた広告資料を見ると、「贅肉を取り去りました HIGH QUALITY AMPLIFIER」とのキャッチコピーとともに、「国産、輸入を問わず数々のテストの結果、最高と認められたパーツのみを使用」と説明書きがあり、高品位パーツにこだわっていたことが伺える。カタログ上83×3とあった真空管はテレフンケンのものだったそう。

当時『無線と実験』に掲載していた「EP-10」の広告

この、「常に改良を加えていく」考え方というのは、ロット番号を付けて製品を管理するバッファロー時代にも受け継がれている。

「バッファロー時代に、クレームの電話が鳴り続けたこともありました。そこで主人(誠)に『もうちょっと完成させてから市場に出して』と言うと、『そんなことをしたらすぐに市場が食われてしまう』と怒鳴られて。私たちは何をこんなに叱られるんだろうと」

廣美夫人は、当時はその真意がわからなかったと振り返るが、完璧な製品になるまで待っていては結果的に時代遅れになるということだったのだ。

改善すべき点に気づいたら、スピーディーに製品にフィードバックしていく。それによって製品はブラッシュアップされ、お客様に喜んでいただける品質、誠が言うところの『魅力品質』に昇華していくのだ。

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