EPISODE. 3

大ヒット作
糸ドライブプレーヤー

「3533システム」

1978年10月には大久保式糸ドライブプレーヤー「3533システム」が発売された。

「3533システム」の雑誌掲載広告

この「3533システム」は、砲金製ターンテーブル3533+鋳鉄製プレーヤーベース3233+24極シンクロナスヒステリシスモーター3124+1点止めアームベース3012で48万円もした。これ以外にも予算に合わせた組み合わせができるのが特徴で、メルコオーディオ製品最大のヒット作となった。

もっともこのターンテーブルシステムは、誠としてはあくまでもイコライザー・プリアンプ「EP-10」やステレオ・パワーアンプ「MPA-10」といった真空管アンプのためのアクセサリーを意図していたようだ。実際、相乗効果でアンプも売れるようになった。これは誠がのちにことあるごとに口にした「ミックスで考えろ」、つまり「商品単体だけではなく常にその関連商材も合わせて客単価の最大化を志向するプロダクト・ミックス」の“原点”と言えるだろう。

この経験によって誠は、「お客様が関心を示したのは、ターンテーブルでした。良い音とは精巧なアンプの設計で実現すると信じていた私にとっては目から鱗が落ちるような体験でした。『顧客ニーズに沿ったものを作ろう』と決心してから、ボロクソに聞こえた厳しい批判が、よくよく聞いてみると自分がやってきたことが全く違うわけでもない、もう一歩何かが足りないだけなのにボロクソに言われてきたこともわかってきました」と、のちに回想している。真の顧客ニーズというものを見いだした瞬間だった。

当時相羽は、誠と二人三脚でグリーンのコロナのバンに乗り、ユーザー宅までセッティングに行ったという。「EP-10」の荷造りも自分たちでやった。ラーメンよりちょっと太い、うどんみたいな緩衝材を入れて、と思い出話に花が咲く。

「アンプは長野や大阪などの販売店に卸していたと思いますが、ターンテーブルは軸受けが曲がると駄目になるので、木枠に入れて直接ぼくらがユーザー宅まで運んでセッティングしました。誠さんは、実際にお客さんの声を聞きたいというのもあったと思う」

まさに「顧客志向」とマーケティングの原点。「社長は運転が結構荒く、ぼくが運転した方が燃費が良かった」などと、相羽は当時を懐かしそうに振り返りながら話してくれた。

当時をよく知るキーマンとしてもうひとり、廣美夫人の弟・鏡味功がいる。鏡味は、大学2年生となった20歳、1979年からアルバイトとして2年ほど、特注アンプの配線図に従ってハンダ付けと穴開けを中心に従事した。もちろん、ターンテーブルのことも熟知している。

鏡味功

「このターンテーブルは、磨くと音が良くなると誠さんに言われて、金属磨き剤・ピカールでよく磨いていました。モーターも凝っていて、軸受けに対してテンションがかかるよう、引っ張るバネと圧縮バネの両方を使用。ただし、バネ2本だと振動するので、振動を吸収するためにゴム粘土を使っているんです。このゴム粘土は3年に一回ぐらい交換する必要があるので、メンテナンスは大変でしたね」

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