外国人観光客の誘致強化を目指し、町内の観光スポット15か所で無料の公衆無線LANサービスを開始

江差町 様

江差町 追分観光課 課長 大坂敏文氏(右)追分観光課 係長 森直彦氏(左 以下、森氏)

北海道の南西部に位置し、北海道文化発祥の地といわれる江差町は、観光の名所としても古くから知られています。その観光振興を担う江差町追分観光課の主導のもと、江差町役場および町内の観光スポットの合計15か所にWi-Fi環境が整備され、2015年11月から誰でも無料で使える公衆無線LANサービスが開始されました。これにより、国内外を問わず江差町を訪れたすべての観光客が、自分で持ち込んだスマートフォン等を利用して屋内外で自由にインターネットにアクセスし、SNSや江差町の観光情報を閲覧できる環境が実現されました。

概要

ニシン漁で栄えた北海道文化発祥の町

風光明媚な自然と歴史的史跡で知られる観光地

外国人観光客の受け入れを目指し、無料のWi-Fiサービスを導入

北海道文化発祥の地、江差町

檜材とニシン取引で栄えた、昔の町並みを再現した「いにしえ街道」

北海道の中で最も早く開港した港町の1つである江差町。17世紀以降、日本海航路の北前船の往来を基盤として、檜山から伐採される檜材の運搬や、ニシン漁およびニシン取引が盛んに行われ、中でも江戸期のニシン漁最盛期には「江差の五月は江戸にもない」と言われたほどの栄華を極めた歴史を持ちます。

また、北前船の交易によってもたらされた伝統芸能や生活文化は、現在でも数多く伝承されており、370年以上の歴史を誇る、北海道最古の祭りである「姥神大神宮渡御祭」をはじめ、“民謡の王様”とも称される「江差追分」など、数々の文化遺産を有しています。

恵まれた自然と歴史的史跡を活かした観光事業に注力

幕末期に江戸幕府が所有していたオランダ製軍艦で、
江差で座礁・沈没した「開陽丸」が復元され、
現在では「開陽丸青少年センター」として開放。
艦内では引き揚げた遺物などの展示が行われている

文化遺産のみならず、風光明媚な日本海をはじめ「元山」「笹山」「八幡岳」といった山々、檜山道立自然公園の特別区域に指定される「かもめ島」など、美しい自然に囲まれる一方で、数多くの歴史的建造物が立ち並ぶ江差町は、古くから観光の名所としても知られてきました。檜材とニシン取引に関連した問屋、蔵、商家、社寺など今も残る歴史的建造物に加え、現代風にアレンジした建物が軒を連ねる「いにしえ街道」をはじめ、港には江差沖で座礁沈没した江戸幕府の軍艦である「開陽丸」が復元され、町内の随所に歴史のロマンを感じることができます。

江差町 追分観光課観光 係長 森氏は、「江差町は自然の景観や歴史的史跡に恵まれており、これらの資源を活かした観光事業にも力を入れています。ここ数年は、北海道の中でも独自の文化を育んできた江差町の魅力が海外にも知られるようになり、国内のみならず外国からの観光客も増加しています」と説明します。

Wi-Fi環境の構築で外国人観光客のさらなる受け入れを目指す

江差町では、海外からの観光客のさらなる受け入れと満足度向上のため、さまざまな取り組みを進めています。その施策の1つとして実施されたのが、Wi-Fiを使って誰もが簡単にインターネットにアクセスし、観光スポットからでもSNS等のサービスを快適に利用できるようにする公衆無線LANサービスの提供です。その実現にあたり、入札を経て選択されたのが、栄電社の提案によるバッファロー商品を活用したWi-Fiシステムでした。

江差町

北海道の南西部、北海道檜山振興局中部に位置する人口約8,500人の町。北海道文化発祥の地といわれ、ニシン漁による北前船交易によって栄えてきた。漁業を基幹産業とする一方、近年は史跡や景観の観光資源を活用した観光事業に注力、国内外から多くの観光客が訪れている。

所在地

〒043-8560 北海道檜山郡江差町字中歌町193-1

電話

0139-52-1020(江差町役場)

目標・課題

航空便の増設や新幹線開業で、外国人観光客増に大きな期待

Wi-Fi環境の整備が外国人観光客受け入れに不可欠

面倒な設定が不要で簡単なWi-Fi接続の実現が要件

交通網の整備に伴って、増加が期待される外国人観光客

外国人観光客のさらなる受け入れのために、観光スポットに
おいてもスマートフォンなどからインターネットに
アクセス可能なWi-Fi環境の整備が求められていた

近年、新千歳空港への中国、台湾等からの定期運航路線の開設ほか、函館空港への台北や北京との国際定期便の就航といった航空環境の整備により、江差町を含めた道南地域への外国人観光客は急増しているといいます。加えて、2016年3月の北海道新幹線開業と、さらなる外国人観光客の増加が見込まれる中、その受け入れを行っていくために江差町では様々な取り組みを推進しています。外国語による案内板・道路標識の設置を進める一方、江差町公式HPの多言語化にも取り組んでおり、広く海外へのアピールを行っています。
そうした中で、重点施策の1つとして急務とされていたのが、「街中でもネットワークにアクセス可能な、公衆無線LANサービスの提供でした」と、森氏は強調します。

モニター調査の結果からもWi-Fiが必須であることが明らかに

近年では、スマートフォンを片手に、観光スポットで写真を撮影すればすぐにSNSにアップしたり、地域の情報を調べたりする観光客が増えています。江差町内でもスマートフォンを携える外国人観光客が多数見受けられるようになっており、「役場でも外国人観光客から『宿泊地や観光地でWi-Fiは使えるか』という問い合わせを頻繁に受けるようになっていました」と、森氏は話します。

また、今年2月には国土交通省北海道運輸局函館運輸支局の主催により、外国人に参加してもらってのモニターツアーが行われたのですが、江差町を訪れた調査員の外国人からは、「海外では当たり前にある無料Wi-Fiがない」という感想が多数寄せられたといいます。「こうした調査結果からも、これからの江差町の観光促進にはWi-Fi環境が不可欠と実感したのです」と森氏は強調します。

手続きが不要で誰でも簡単にアクセス可能な利便性が不可欠

無料公衆無線LANサービスの案内板。
Wi-Fiが整備された観光スポットに設置されているが、
外国人観光客向けに多言語での表記がなされている

江差町は公衆無線LANサービスの導入に向け、2015年8月、入札を実施します。入札を行うにあたって掲げられた要件は、「利用にあたって事前に面倒な設定を行うことなく、誰もが簡単にWi-Fiを使えるようにする」ことでした。「私が利用者だとしても、利用時にさまざまな設定を行わなければならないなら、面倒になって使わないと思います。そうしたことから、手続きなしでも自由に使えるWi-Fi環境を提供したいと考えました」と森氏は話します。

また、団体客が一斉にWi-Fiにアクセスした場合であっても快適な通信を確保すること、さらには端末からの初回アクセス時に「Wi-Fi利用にあたっての注意事項」を表示させるような仕組みも要件として定められました。

解決策

公衆無線LANに必要な機器/機能をすべて備えたバッファローを選択

フリースポット導入キット「FS-600DHP」を採用

島しょ部などの拠点間通信に「WAPS-AG300H」を選択

導入商品

フリースポット導入キット
11n/a/g/b対応
Wi-Fiアクセスポイント

エアステーションプロ
11ac/11n/a&11n/g/b切替使用
インテリジェントモデル
Wi-Fiアクセスポイント

エアステーションプロ
11n/a & 11n/g/b切替使用
スマートモデル
Wi-Fiアクセスポイント

エアステーションプロ
11n/a&11n/g/b切替使用
屋外遠距離通信用
平面型アンテナ

エアステーションプロ
11n/g/b対応
屋外通信用 セクターアンテナ

レイヤー2 Giga PoE
スマートスイッチ

公衆無線LANの利便性を高める多彩な機能を評価

江差町役場や町内の観光スポットに設置された「FS-600DHP」。
ゲートウェイ機能を活用したネットワーク拡張も行われている

2015年8月末、入札の結果、最終的に選択されたのは栄電社が提案したバッファローのWi-Fi商品を活用したWi-Fiシステムでした。 提案を担当した栄電社の代表取締役 池内卓也氏は、「無料の公衆無線LANサービスのインフラを構築していくにあたって、必要な機能や機器をセットとして取り揃えているのが、バッファローしかなかったことが決め手となりました」と説明します。また、今回のインフラの主軸となるWi-Fiアクセスポイントの「FS-600DHP」が、公衆無線LANサービスを実現していくにあたって他のWi-Fiアクセスポイントやスイッチと組合せて、より大規模なWi-Fi環境を構築可能な「ゲートウェイ機能」や、利用者のスマートフォンやPCからのアクセスに対して、あらかじめ登録されたURLにリダイレクトさせられる「ポップアップテクノロジー」を搭載していることも評価ポイントとなりました。

「これらの機能は、バッファローから提案してもらえました。結果、江差町の要望に合致するネットワークの構築に必要な機能を提供できた一方、導入コストも抑制されたと考えています」(池内氏)

ゲートウェイ機能により、Wi-Fiアクセスポイントを拡充

今回の公衆無線LANサービスインフラの主軸を担う「FS-600DHP」は、11n/a300Mbps+11n/g300Mbpsの高速転送に対応したハイパワータイプのWi-Fiアクセスポイントです。安定通信が可能な5GHz帯と対応機種が多い2.4GHz帯を同時に利用者に提供が可能です。さらに複数のスイッチと接続し、公衆無線LANサービスの提供範囲を拡大させる「ゲートウェイ機能」を活用し、Wi-Fiアクセスポイント「WAPM-1166D」が配下に増設されており、広い範囲で多くの観光客が一斉にアクセスした場合でも対応可能なWi-Fi環境が実現されています。

さらに島しょ部にあるため有線ネットワークの延長工事が困難であったかもめ島には、近隣にある開陽丸青少年センターと「WAPS-AG300H」および屋外遠距離通信用アンテナ「WLE-HG-DA/AG」を用いた拠点間無線通信を実施。光ファイバー延長工事を行わずとも、島しょ部までネットワークを延長させることができました。このほか、観光施設周辺の屋外でもWi-Fi通信が行えるよう、屋外通信用 セクターアンテナ「WLE-HG-SEC」も導入されています。

PoEスイッチの導入で電源回りの工事も抑制

一方、Wi-Fiアクセスポイントを接続する機器として、PoE給電に対応したGigaスイッチ「BS-GS2008P」が採用されています。端末間の通信を防止するWi-Fiアクセスポイントのプライバシーセパレーターや隔離機能に加えて、Wi-Fiアクセスポイント間の通信を隔離するスイッチのVLAN機能の設定により、Wi-Fi下の端末が相互に通信が行えないようにすることでセキュリティーを確保しました。

また、BS-GS2008Pはギガビット対応による高速通信が可能であり、Wi-Fiアクセスポイントへ端末からの通信が集中した際にもパフォーマンスを劣化させることはありません。さらにPoE給電への対応により、電源周りの工事をはじめとした設置費用の抑制にも大きく貢献しています。

江差町公衆無線LANサービス システム構成

効果

SNSへの写真のアップロードも快適に

スマートフォンへの観光情報の配信など、利便性向上も視野に

人数が限られていた観光ガイドの業務も効率化

役場、観光スポットを中心に町内15か所で公衆無線LANサービスを開始

2015年10月から約一か月間をかけて設置工事が開始されました。重要指定文化財への設置もあることから、施設に傷をつけたり、機器設置によって景観を損なったりしないよう学芸員の立会いのもと、細心の注意を払いながら工事が行われましたが、無事、工事は完了し、2015年11月1日から本番運用が開始されました。

観光客に向けた本格的なアナウンスはこれからということですが、端末とWi-Fiアクセスポイント間の通信速度は最大300Mbps(規格値)に対応しているため、快適に利用可能な公衆無線LANサービスが実現されています。実際、取材時にスマートフォンでアクセスしたところ、SNS等への写真のアップロードもスムーズに行うことができました。

観光情報の配信にポップアップテクノロジーの活用も検討

バッファローのWi-Fi商品の活用により、公衆無線LANサービスを整備した江差町では、今後、Wi-Fiアクセスポイントに搭載された多彩な機能を活かし、さらなるサービス向上に努めていきたいといいます。その一例がポップアップテクノロジーの活用です。  「まずは初回アクセス時にWi-Fi利用時の規約を表示させるようにしていますが、今後は、江差町の観光情報や、訪れた地域の周辺情報を提示しお勧めのスポットを提案するといった、より利便性の高いサービスを実現していきたいと考えています。そうした情報を参考にしながら観光地の見どころを調べつつ、町内散策を楽しんで頂きたいと思っています」と、森氏は話します。

今後は、飲食店など民間の事業者とも連携しながら、点で整備されていた公衆無線LANサービスを面にも広げられるよう模索しているといいます。

観光ガイド業務の効率化にも期待

一方、Wi-Fiの導入により業務の効率化にも期待が寄せられています。その一例が観光ガイド業務の効率化です。 「江差町を訪れる観光客から希望があれば観光ガイドがつくのですが、観光ガイドの多くは兼業のボランティアであり、江差町役場の職員が駆り出されることもあります。しかし、今後公衆無線LANサービスの利用が進み、観光情報の提示といったサービスもどんどんWi-Fiを通じて行えるようになれば、ガイド業務も抑制され、その時間を他の業務に充てられるようになると期待しています」(森氏)

日本海を見渡せるかもめ島の高台にもWi-Fiアンテナが設置され、
野外であってもWi-Fiアクセスが利用可能となっている

今回の公衆無線LANサービスの導入を振り返り、森氏は次のように栄電社を評価する一方、バッファローに対しても期待を述べました。
「今回の公衆無線LANサービスを実現していくにあたり、どのような商品や機能が最適なのか役場の職員だけでは分かりませんでした。対して、栄電社からは多くのアドバイスや提案をしてもらい、結果、満足のいくWi-Fi環境を構築してもらえました。また、バッファローには、観光客がWi-Fiを利用する際に、その利便性をさらに高められるような機能の開発と提案をこれからもお願いしたいと考えています」(森氏)


取材後記

「美しい日本海の夕日の光景をスマートフォンで撮影、その場ですぐにSNSにアップできるようなれば、さらなる観光客増加の呼び水になります」と取材時に森氏がコメントされたように、ネットを通じた個人体験の口コミの拡散は観光客誘致のための有効な手段となります。そうした観光客の行動を促進するためにも、Wi-Fi環境の整備は、今後、観光地を有する自治体にとって、ますます重要課題となっていくでしょう。


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