無線LANで仮設消防庁舎と消防本部が移転した教育センターをつなぎ消防機能のいち早い復旧を実現。
岩手県釜石市役所 様

広聴広報課 情報推進係 川崎健氏
3月11日に発生した東日本大震災で大きな被害を受けた岩手県釜石市。市庁舎の一部も被害を受け、市役所および消防署などでネットワークがダウンしました。現在、市役所の機能をいくつかに分散させ、市の職員および市民が一体となって復興に取り組んでおられます。
概要
陸中海岸国立公園の中心に位置、岩手県南東部を代表する都市。
東日本大震災で大きな被害を受け、ネットワークが完全にダウン。
市の機能を分散し、ネットワークを復旧させて市民サービスを再開。
釜石市についてお聞かせください
岩手県の南東部にあり、周辺が陸中海岸国立公園に指定されるなど、風光明媚な湾岸都市として知られます。世界三大漁場の一つに数えられる三陸漁場一角にあって、豊富な海産物にも恵まれ、また、ラグビーで有名だった新日鉄釜石のある鉄の町としてご存知の方もおられるでしょう。現在はラグビーのクラブチーム「釜石シーウェイブスRFC」が活動しています。
東日本大震災で大きな被害を受けました
釜石市が海岸部を中心に津波による大きな被害を受けたことは各メディアなどでご存知のことと思います。市の庁舎はちょっとした高台にあったものの、1階と地下が浸水の被害を受け、ネットワーク関連のスイッチ類が地下にあったため、ネットワークが完全にダウンしてしまいました。消防署も1階が浸水し、電気設備が壊れたこともあって、ここも使えなくなりました。
サーバーは大丈夫だったのですか
市の中心から少し離れた場所にサーバーを置いていたので被害はまぬがれました。市の拠点の一つである教育センターまでは回線を復旧できたのですが、そこから先の被災地域ではネットワークが遮断しており、とくに消防署はほぼ機能が失われた状態でした。消防署としての役割を果たせるようにするためにも早急に対策をする必要がありました。
釜石市役所

※
いくつかの庁舎に機能を分散していたため、使用できる拠点をベースに復興に向けて努力されている釜石市役所。ネットワーク機能も復旧し精力的に業務を行われています。
市章の中央はカマ(釜)、輪郭は海の防波堤ならびに鉄を表わし、みなと釜石と鉄都を表徴するとともに、釜石の振興発展を意味しています。
目標・課題
消防本部が教育センターへ移転、近くの市有地にブレハブを建て消防署を移転。
消防本部が移転した教育センターとプレハブの消防署をつなぐ専用線を検討。
有線は事実不可能。そこでアイシーエスさんからの提案で無線LANに注目。
どんな対策をとられたのですか

教育センターの機能は復旧したので、これを利用するために200mほど離れた空き地にプレハブを建て、ここに消防署の機能を移すことにしました。スペースに余裕があって消防車も駐車できるからです。そのプレハブと教育センターの間を、有線なり無線なりでつなげれば、教育センターまでは回線が来ているわけですから、プレハブ側でもネットワークが使えるようになると考えたわけです。
どのようにしてつなぐ計画だったのですか

プレハブでできた仮の消防署とはいえ、かなりの期間にわたって使うことが予想されましたから、最初は専用線を引くことも考えました。しかし、このあたりは電線などがすでに埋設されていて、新たに回線を引くことは難しいことがわかりました。そこでシステムインテグレーターのアイシーエスさん(本社・岩手県盛岡市)に相談したところ、無線はどうですかという提案をいただいたわけです。
それまで無線を使ったことはありましたか
実際に導入したことはなかったのですが、検討したことはありました。有線の場合、配線で苦労することが多かったので、そうした苦労のない無線LANへの関心はありました。今回の場合、イレギュラーなケースですし、有線でつなげないことはわかっていましたから、提案を検討してみることにしたのです。そこでアイシーエスさんからネットワーク接続の支援活動をされているバッファローさんに連絡をとっていただき無線LAN導入が始まりました。
解決策
2カ所をつなぐアンテナとアクセスポイントを両方に設置。
下見で、無線LANで十分に通信が可能であることを確認。
下見の翌日には工事完了。その日のうちに導通テスト終了。
導入商品
どんな内容の構成にしたのですか

消防署のプレハブと、教育センターの両方に指向性アンテナを設置し、プレハブ側はアクセスポイントからハブを通じて端末につなぎ、教育センター側もアクセスポイントを通じてつなげるという構成になっています。教育センター側は電源の取れない屋根裏にアクセスポイントを置いたので、PoEインジェクターも設置する……およそこういった内容です。
不安とか疑問などは何かありましたか

プレハブと教育センターは200mほど離れていますから、やはりちゃんと飛ばせるかどうかが心配でした。とにかく一度、現場を見て欲しいとお願いしたところ、お願いをした数日後に設計と工事を担当されたバッファローさんが来られて、下見をされたわけです。現場を確認してすぐにこれなら大丈夫ですという返事をいただきました。
すぐに工事をされたわけですか

下見をした翌日の17日には工事にかかっていました。その日のうちに導通テストもして、通信OKの状態で引き渡していただきました。設定作業には若干苦労しましたが、とにかくこれほど迅速に、しかも無償で対応してもらえるとは思っていませんでした。実際の運用開始は7月1日からでしたが、これは消防署の移転がそこまでずれこんだからです。
効果
移転当日から通常の業務が可能に。通信速度への懸念も杞憂。
消防庁舎の再建まで、当分の間無線LANを利用予定。
想定外の事態も想定し、ネットワーク機器の設備場所を考慮すべき。
実際にお使いいただいていかがでしょうか

「移転した当日から通常通りの業務ができたのでありがたかった」との声を現場からもらっています。通信に関してのクレームはありません。無線だと通信速度はどうかなという懸念は少しあったのですが、ほとんど感じることもなく、まったくと言っていいくらい業務への影響はないようです。
これからの予定はいかがですか

現時点で消防庁舎がいつ再建できるか白紙の状態なので、当面はプレハブを使っていくことになるでしょう。バッファローさんからは「いらなくなったらすぐに撤去できることも無線LANのメリットです」との話をいただいていますが、当分の間はこれを使っていくことになると思います。有線LANの復旧作業の際、配線やケーブルの手配で苦労した分、無線LANの手軽さ、速さが実感できたことは収穫でした。
他の自治体の情報担当者の方へアドバイスを
アドバイスなんておこがましいですが、あえてするとすれば、ネットワーク関連の設備や機器は想定外のことも考慮して設置場所を決めるべきだということです。今回の震災で、もしネットワークがダウンしていなかったら、もっと早く市民サービスが再開できたのにという思いはあります。私たちの経験を教訓に、どうか万全の対策をとっていただければと思います。
取材後記
東日本大震災のあと「バッファロー・ネットワーク支援隊」として、被災された自治体向けにネットワーク復旧支援活動を無償で行っているバッファローですが、ネットワークダウンの被害に遭われた釜石市役所様にもこの支援隊をご利用いただきました。一刻も早い復旧をする必要があること、専用線を引けない事情があること、仮のプレハブでの業務だったことなどから、無線LANのメリットが十分に生かせた事例となりました。